日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビュスタイト」の意味・わかりやすい解説
ビュスタイト
びゅすたいと
wüstite
鉄の単純酸化物。合成実験では600℃以上、強い還元環境下でのみ生成される。空気中で酸素と結合して熱を発し、磁鉄鉱相当相となる(これは使い捨て懐炉の原理でもある)。したがって天然の産状は、隕石(いんせき)中、ある種の玄武岩中、鉄を含んだ岩石を通過する硫化水素あるいは硫化水素水による還元産物、キンバレー岩中のダイヤモンドの包有物、深海底の高塩類濃度海水からの沈殿物、ある種のマンガンノジュール(マンガン団塊)、隕石源とされる宇宙塵(じん)(星間物質)など特殊なものが多い。多く粒状あるいは皮膜状。ほかの鉄鉱物を部分的に置換することもある。天然のものは鉄(Fe)の不足したものが多いとされる。ビュスタイトの名称は最初人工物に対して、ドイツの冶金(やきん)学者ビュストFriedrich Wüst(1860―1938)にちなんで命名された。その後、1960年に鉱物として初めて発見されたが、発見地、発見者ともにドイツおよびドイツ人であったため、問題なくそのまま鉱物名としても提唱、承認された。
[加藤 昭]