鉄鉱物(読み)てつこうぶつ(英語表記)iron minerals

改訂新版 世界大百科事典 「鉄鉱物」の意味・わかりやすい解説

鉄鉱物 (てつこうぶつ)
iron minerals

鉄を含む鉱物を総称していう。鉄鉱物は硫化鉱物,酸化鉱物,水酸化鉱物,ハロゲン化鉱物,炭酸塩鉱物,リン酸塩鉱物,ヒ酸塩鉱物,ケイ酸塩鉱物など多様な化学組成をもっている。これらの鉱物中で鉄はFe2⁺およびFe3⁺の酸化状態で存在する。火成岩や変成岩中では,2価の鉄はマグネシウムとともにカンラン石,輝石,角セン石,黒雲母などの有色ケイ酸塩鉱物中に存在し,3価の鉄はケイ酸塩鉱物中のアルミニウムの一部を置換している。また,鉄は磁鉄鉱チタン鉄鉱黄鉄鉱磁硫鉄鉱などの副成分鉱物として,火成岩や変成岩中に存在している。堆積岩中には赤鉄鉱針鉄鉱,黄鉄鉱などの鉄鉱物が普通に存在し,白鉄鉱,磁硫鉄鉱,ラン鉄鉱,その他の鉄鉱物もみられる。鉄鉱床にはスウェーデンのキルナ型鉄鉱床のような正マグマ鉱床,岩手県釜石鉱山のような接触交代型鉄・銅鉱床,新潟県赤谷鉱山のような熱水性鉄鉱床,また北海道内浦湾沿岸の海岸砂鉄鉱床のような重鉱物の濃集による堆積鉱床もあるが,世界の鉄鉱生産額の大部分は化学的沈殿によって生成した,堆積性鉄鉱床から採掘されたものである。

 このような堆積性鉄鉱床は,その規模,生成時期,構成鉱物,堆積環境などから,沼鉄鉱鉱床,カンブリア紀以降の層状鉄鉱床,縞状鉄鉱床に三大別される。(1)沼鉄鉱鉱床 これら3種の鉱床中で最も規模の小さいもので,多くの場合,氷期の大陸氷河によって削られてできた沼沢地,湖などに鉄鉱物が堆積したものである。この種の沼鉄鉱鉱床の分布は北半球に限られている。日本や千島列島などの火山地域では,鉄に富む温泉水が窪地にたまって沼鉄鉱鉱床をつくっている。北海道喜茂別鉱山などはその例である。沼鉄鉱鉱床の鉱石鉱物は主として針鉄鉱である。(2)カンブリア紀以降の層状鉄鉱床 規模は沼鉄鉱鉱床と縞状鉄鉱床の間に位置し,名前が鉱床の生成時期を示している。カンブリア紀以降の層状鉄鉱床の鉱石は縞状鉄鉱床の鉱石に比べてSi/Fe比が低く,鉱石はしばしば魚卵状を呈する。アルザス・ロレーヌ地域のミネット鉱,アメリカのアパラチア山脈クリントン鉱,カナダのニューファンドランド地方ワバナ鉱などがこの種の鉱石としては著名である。主要な鉱石鉱物は赤鉄鉱と針鉄鉱であり,昔の海岸線付近で堆積した鉱床と考えられている。(3)縞状鉄鉱床 いずれも先カンブリア界中にあり,その規模の最も大きいものは,カナダのニューファンドランド州からケベック州オンタリオ州,アメリカのミネソタ州にかけて分布するもので,著名なスペリオル湖地域の鉄鉱床はその南西端に位置している。類似の鉄鉱床はブラジル,インド,アフリカ南部,オーストラリアにも知られている。この種の鉱床は鉄に富む層とチャート互層からなり,縞状を呈する。鉱石鉱物は主として赤鉄鉱と磁鉄鉱である。

 日本には(2)あるいは(3)として分類される堆積性鉄鉱床は存在しない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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