日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビューダン石」の意味・わかりやすい解説
ビューダン石
びゅーだんせき
beudantite
鉛および鉄の含水硫酸塩ヒ酸塩鉱物。系統分類上は硫酸塩あるいはヒ酸塩(実際上はリン酸塩、ヒ酸塩、バナジン酸塩)のどちらにでも帰属可能であるが、現在では後者の一員として取り扱われている。自形は六角板状、擬立方体、擬正八面体など。通常は微細結晶として産し、粉末状あるいは皮膜状をなす。
日本では宮崎県西臼杵(にしうすき)郡高千穂(たかちほ)町土呂久(とろく)鉱山(閉山)の酸化帯から産出が知られている。主成分の鉛は方鉛鉱あるいは鉛の二次鉱物を供給源とし、鉄およびヒ素は硫砒(りゅうひ)鉄鉱あるいはスコロド石などこれらを含む二次鉱物に由来する。世界的には熱水鉱脈鉱床や斑(はん)岩銅鉱鉱床からのものが多い。また古代ギリシアのラウリウムLauriumでは、金属精錬場跡の鉱滓(こうさい)の風化物から標本に値する美晶が発見されている。
共存鉱物はスコロド石、ミメット鉱、藍銅(らんどう)鉱、毒鉄鉱、ダフト鉱duftite(化学式CuPb[OH|AsO4])、硫酸鉛鉱、オリーブ銅鉱、白鉛鉱など。同定は黄色、褐色、赤褐色、まれに暗緑色から黒色粉末状の外観による。条痕(じょうこん)では本来の色から赤味が抜け、黄色~緑色の色調をもった色が出る。粉末では比重はわかりにくいが、4.5はかなり大きいほうである。命名はフランスの鉱物学者フランソワ・S・ビューダンFrançois S. Beudant(1787―1850)にちなむ。
[加藤 昭 2018年7月20日]