施釉陶器の総称。古代エジプトのケイ酸質の施釉陶器とヨーロッパ近世のスズ釉陶器の2種類がある。古代エジプト語でチェヘネトtshehenetと呼ばれた陶器は,石英や凍石の粉末を素地とし,その上にアルカリ質の釉を施したもの。エジプトではこれらの施釉陶器は先王朝時代(前3200年ころ)から使用されており,すでに銅酸化による青緑色,マンガンによる紫色などで装飾されていた。ファイアンスの名称は,ルネサンス期以降イタリアのマヨリカ陶器生産の一大中心地ファエンツァの地名に由来する。したがって技法的には軟質のスズ釉地にエナメルで絵付をしたマヨリカ陶器と同一種類のものをいう。16世紀以後アルプスを越えて中部ヨーロッパに伝播したこのスズ釉陶器は,中世的伝統の鉛釉陶器に代わり,以後数世紀にわたりヨーロッパ陶器の主役となった。
執筆者:前田 正明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
西洋の陶芸用語。イタリアのマジョリカ陶器の影響を受けて、16世紀以後、アルプス以北で焼成された軟質の錫釉(すずゆう)色絵陶器の総称。名称は、15、16世紀イタリアにおけるマジョリカ生産最大の窯場(かまば)ファエンツァに由来する。したがってファイアンスの技法は、イタリアのマジョリカ、オランダのデルフト陶器とほとんど同じである。概して胎土は粗く、釉薬はぶどう酒の搾りかすを灰にし、これに鉛と錫の酸化物を加える。焼成温度は1100℃前後。その主要窯場はフランスのヌベール、ムスティエ、ルーアン、ドイツのニュルンベルク、ハナウ、フルダ、ベルギーのアントワープ(アントウェルペン)、オランダのデルフトなどが知られる。なお、これらの西洋の錫釉色絵陶器のほかに、古代エジプトで焼成されたソーダガラス釉をかけた青釉陶器、タイル、ビーズ、護符なども一般にファイアンスとよんでいる。
…またこれに並行して,16世紀に入りイタリアの多くの陶工が,フランスやドイツに移住して窯を築き作陶に従事した。一般にアルプス以北ではスズ釉多彩陶器のことをファイアンスと呼んでいるが,これは15,16世紀を通してイタリアのマヨリカ陶器生産の一大中心地であったファエンツァの地名に由来するものである。フランスでは1512年,イタリアの職人たちがリヨンに来てファイアンスを焼いたのを皮切りに,64年にはヌベール窯が,79年にはムスティエ窯がそれぞれイタリア人によって開窯されている。…
…陶器の生産地として,中世初め以来の古い伝統をもっており,長い間ヨーロッパの陶芸をリードしてきた。フランス語の陶器(ファイアンス)はこの都市の名に由来している。今日でも陶芸は盛んで,1908年に設立された国際陶芸博物館には,ファエンツァのみならず,古今東西の陶器が展示されている。…
※「ファイアンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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