魚貝類,鳥獣肉,野菜などを焼く料理。材料を直接火にかざすなど,加熱のための容器をかならずしも必要としない最も原初的,基本的な調理法である。日本では古く〈あぶりもの〉といい,〈炙〉の字を用いた。平安時代から宮廷の供宴などに多く見られるのは包焼き(裹焼)(つつみやき),別足(べつそく),ぬかご焼きである。包焼きは,《万葉集》に〈裹める鮒(ふな)〉などと見え,濡らした葉などでフナを包んで焼いたとも考えられるが,室町期の《庖丁聞書》や《四条流庖丁書》には,フナの腹に結び昆布,串柿(くしがき),ケシ,クルミ,焼栗などを入れて焼き,あるいは煮るものとしている。古く壬申の乱に際して,大友皇子の妃であった十市皇女が包焼きのフナの腹に密書をしのばせて父大海人皇子(おおあまのみこ)に近江方の謀計を伝え,それによって大海人は難をまぬがれたとする伝承があり,嘉儀(かぎ)の料理とされたようである。別足は鳥足(ちようそく)とも呼び,キジのももを焼いたものであった。ぬかご焼きは〈零余子焼〉と書いたが,ヤマノイモにつく珠芽のぬかご(むかご)を焼くのではなく,コイの皮つきの身を大きなぬかごほどに切って串にさし,醬(ひしお)をつけて焼くものだったらしい。江戸時代になると焼物の種類も多くなってくるが,貞享・元禄(1684-1704)ころもてはやされた料理の一つに杉焼きがある。杉箱の中にみそを濃く溶いて煮立て,そこへタイ,カモなどの魚鳥や野菜を入れて煮るもので,杉箱の底にはのり(糊)で塩を厚く塗りつけて焼けないようにした。タイやカモの肉にほのかな木香(きが)をうつすというしゃれたもので,《日本永代蔵》はぜいたくきわまる料理という意味の〈いたり料理〉の一つにこれを挙げている。ウナギは蒲焼の調理法の革命的変化によって一躍万人の賞美するものになり,しぎ焼がシギそのものの焼鳥からナスの料理に変わったのも,きじ焼が同様にキジを材料とするものから豆腐の料理へ,さらに切身の魚の付け焼きへと変化したのも,江戸時代のことであった。
調理器具の発達によって,現代の焼物料理はいよいよ多様化したが,手法上は直火(じかび)焼きと間接焼きとに分類される。直火焼きは焼網にのせるか串を打って直接火にあてるもので,塩をふってそのまま焼く塩焼きのほか,たれや練りみそをつけて焼く蒲焼,照焼き,鬼がら焼き,田楽,焼鳥,焼肉その他があり,材料をあらかじめ調味材につけておいたのち焼くみそ漬,かす漬のようなものもある。間接焼きはなべ,鉄板,天火などを使って間接的に焼くもので,昔は材料を紙などに包んでいろりの灰に埋めたり,ほうろくに入れて火にかけ,ふたの上にも火を置いて蒸焼きにするほうろく焼き(ほうろく)のような手法が用いられたが,今は天火を用いることが多い。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…可塑性に富んだ粘土を用いて所定の形に成形し,高熱で焼き締めた要用の器物で,土器clayware,陶器pottery,炻器(せつき)stoneware,磁器porcelainの総称。一般に〈やきもの〉とも呼ばれる。人類が日常の容器として土器を用いるようになったのは,いまから1万年以上も前の,新石器時代のことである。土器の出現の契機は,煮沸容器としての機能の獲得にあったと考えられる。やがて古代文明の成立と相前後して,原始時代以来の長い伝統をもった酸化炎焼成による赤い素焼の土器のほかに,還元炎焼成による灰色の硬陶が生まれ,次いで灰釉を施した高火度焼成の施釉陶器が出現したことが知られている。…
※「焼物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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