改訂新版 世界大百科事典 「フォルクスシューレ」の意味・わかりやすい解説
フォルクスシューレ
Volksschule
現代ドイツにおける普通義務教育学校の俗称であるが,歴史的にはドイツの初等義務教育学校をさす。民衆学校,国民学校などと訳されている。その歴史は14世紀ころに発生したドイツ語学校にさかのぼりうるが,それは聖職者への道に通じるラテン語学校と対比された呼名であり,民衆層の子どもたちに主として母国語の読み書きを教える学校であった。
19世紀の前半から中葉にかけてのフォルクスシューレは,民衆層のための初等義務教育機関として,大学教育に接続するエリート中等教育機関であるギムナジウムGymnasiumとはまったく別系統のものとして制度的に発展していった。20世紀に入り,いわゆる統一学校運動の成果として,第1次世界大戦後のワイマール共和国において,ドイツ教育史上はじめてすべての国民に共通の初等教育機関として4年制の基礎学校(グルントシューレGrundschule)が設定されたが,その修了後ギムナジウム等の中等教育機関に進学する者を除いた残り4年間の普通義務教育のための学校に対して,基礎学校段階をも含めてフォルクスシューレの名称が一般に用いられた。フォルクスシューレ卒業後は直ちに職業生活に入る者が多く,したがって上級の4年間は,依然として民衆層のための学校という基本的性格を保持していた。
第2次世界大戦後,ソ連の学校制度をモデルに統一的な単線型の教育制度をつくりあげていった東ドイツとは対照的に,西ドイツではワイマール時代の伝統的な分岐型学校制度が温存された。すなわち,4年制の共通の基礎学校のうえに,4年制の国民学校高等科Volksschuloberstufe,5・6年制のミッテルシューレMittelschuleないしレアルシューレRealschule,9年制のギムナジウムの三つが分立するという制度である。1964年の教育制度の統一に関するハンブルク協定により,国民学校高等科が5年制の基幹学校(ハウプトシューレHauptschule)へと拡充され,6年制のレアルシューレや9年制のギムナジウムとならんで明確に中等教育機関として位置づけられるに及んで,フォルクスシューレという名称は正規には使用されなくなったが,しかしなお巷間では基礎学校と基幹学校を合わせた9年間の普通義務教育学校に対する俗称として,用いられている。また,90年の東西ドイツ統一後は,旧東ドイツの各州でも旧西ドイツ型の制度が適用されつつある。
ちなみに,現行の3分岐型学校制度は早すぎる能力選別の制度であると批判され,その立場からより統一的な教育体系を求める動きも生まれ,1960年代の終りころから従来の3類型を統合する中等教育機関としての総合制学校(ゲザムトシューレGesamtschule)も実験的に試行されてきているが,大規模化などの新たな困難も出現し,依然として伝統的な3分岐型制度が大勢を占めている。
執筆者:平野 正久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報