フランク‐ヘルツの実験(読み)ふらんくへるつのじっけん(英語表記)Franck-Hertz's experiment

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フランク‐ヘルツの実験」の意味・わかりやすい解説

フランク‐ヘルツの実験
ふらんくへるつのじっけん
Franck-Hertz's experiment

ボーアが仮定した原子の不連続的エネルギー準位の存在を、1914年、J・フランクとG・L・ヘルツが直接的に実証した実験図A)。図の管球中に陰極Cとグリッド格子)Gを対向させて置き、グリッドの後ろに陽極Aを置く。排気したのち水銀滴を入れて管球を水銀蒸気で満たす。Cで発生する熱電子を加速するための電圧VをCとGの間にかけ、GとAの間にはVと逆向きの小電圧(0.5ボルト)をかけ、0.5電子ボルト以上のエネルギーの電子だけがGからAに到達できるようにして電流Iを計る。Vを0から上げていくとIは増加するが、5.4ボルト付近で急に減少し、ふたたび増加する。図BのようにVが10ボルト、15ボルト付近でも同様のことが観測されるが、これは次のように理解される。電子のエネルギーが水銀原子の第一励起準位のエネルギー4.9電子ボルトに達するまでは、電子は水銀原子と衝突しても弾性散乱するだけでAに到達するから、VとともにIは増加する。電子のエネルギーが4.9ボルトを超えると、水銀原子と衝突したとき原子を励起してエネルギーを失い、Aに到達できなくなる電子が現れてIは減少する。しかしVが5.4ボルト以上では、原子を励起したあとでも、電子はAに到達できるエネルギーをもつから、Iはふたたび増加する。Vが10ボルト、15ボルト付近のIの減少は、原子の励起をそれぞれ2回、3回とおこす電子が現れるためである。この実験では、Vが5.4ボルト以上になると2536オングストロームの波長の光が観測されるが、これは第一励起準位の水銀原子が基底準位に戻るときに放出する光である。

[池上栄胤]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「フランク‐ヘルツの実験」の解説

フランク-ヘルツの実験
フランクヘルツノジッケン
Franck-Hertz's experiment

原子のエネルギーが連続的でなく飛び飛びの値をとり,したがってもっとも安定な基底状態からある特定のエネルギーだけ高いところに励起状態があることを示した実験.1914年,J. FranckとG. Hertzにより行われ,原子構造の解明に大きく寄与した.陰極F,網目状の制御格子G,陽極Pをもつガラス容器を準備し,Pを電位0に,Gを約+0.5 V の一定電位に保ち,GF間に0~E V の間の可変電位差を与え,F点は-E + 0.5 V とする.したがって,もし容器が真空ならばFからでた電子はGにおいてはE eV に加速され,GP間で0.5 eV だけ減速されて陽極に到達する.いま,この容器に水銀蒸気を約2.7 kPa 入れ,Eを0からかえていくと,最初はEの増加とともにPに到達する電子電流が増えていくが,E = 4.9 V で急に減少し,その後,ふたたび徐々に増加して,E = 9.8 V でふたたび激減し,以後4.9 V の間隔で周期的な様相を示す.これはHg原子に4.9 eV の励起準位があり,これに衝突する電子の運動エネルギーがこの値に達すると原子準位の励起に伴う非弾性散乱が起こり,電子は急にエネルギーを失ってPに到達できなくなり,以下Eの増加とともに周期的様相を示すと考えられる.この説明が正しければ,上記4.9 eV の準位エネルギー差に相当した光が放出されなければならないが,石英水銀灯からの光で水銀蒸気を照らすとき,それから出る蛍光なかに253.65 nm の光があり,これに該当していることがわかる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フランク‐ヘルツの実験」の意味・わかりやすい解説

フランク=ヘルツの実験
フランク=ヘルツのじっけん
Franck-Hertz's experiment

1913年 N.ボーアが提唱した原子のエネルギー準位の不連続性を検証するため,14年に J.フランクと G.ヘルツが行なった実験。気体中を電子が通るとき,気体原子の最低のエネルギー準位を E1 ,その次のエネルギー準位を E2 とすると,入射電子のエネルギーが E2E1 より小さければ,電子は原子によって弾性的に散乱されるだけでエネルギーが失われず,入射エネルギーが E2E1 より大きければ,E2E1 だけのエネルギーが気体原子に奪われ,その結果,電子の速度が落ちることが観測された。これは気体原子のエネルギー単位が不連続になっていることの確証であった。この種の実験は,いろいろな原子,分子のエネルギー準位の決定に用いられた。この業績によりフランクとヘルツには,25年にノーベル物理学賞が授与された。

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世界大百科事典(旧版)内のフランク‐ヘルツの実験の言及

【フランク】より

…最初,E.G.ワールブルクの下で気体放電の研究を行ったが,まもなくイオンの可動性についての研究に進み,遅い電子と不活性気体原子との衝突を調べ,その過程が弾性衝突であることを見いだした。また13年以降,G.L.ヘルツと共同で電子衝突の研究を行い,14年電子が4.9eV以上の運動エネルギーをもつときにのみ水銀原子にそのエネルギーを与えることができ,そのエネルギーを吸収した水銀原子が2537Åの共鳴線を放出することを見いだした(フランク=ヘルツの実験)。この研究は前年に発表されたボーアの量子論的な原子構造理論に実験的基礎を与えるものとなり,ヘルツとともに25年ノーベル物理学賞を受けた。…

【ヘルツ】より

…54年からライプチヒのカール・マルクス大学教授。1913年以降,J.フランクと共同して,電子と原子や分子との衝突を研究し,14年電子が4.9eV以上の運動エネルギーをもつときにのみ水銀原子にそのエネルギーを与えることができ,一方,そのエネルギーを吸収した水銀原子は2537Åの共鳴線を放出することを見いだした(フランク=ヘルツの実験と呼ばれる)。この研究は,ボーアの量子論的な原子構造理論に実験的基礎を与えるものとなり,25年にフランクとともにノーベル物理学賞を受賞した。…

【量子力学】より

…このボーアの三部作《原子と分子の構成について》は,さらに多電子原子の安定性や分子の結合エネルギーなどを論じている。翌1914年にはJ.フランクとG.ヘルツが電子で原子をたたき,電子のエネルギー損失がちょうど原子の定常状態間のエネルギー差に相当する離散的な値になることを実証した(フランク=ヘルツの実験)。これはエネルギーの離散的な定常状態が光との相互作用に局限されない実在性をもつことを示すものであった。…

※「フランク‐ヘルツの実験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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