なむ(読み)ナム

デジタル大辞泉 「なむ」の意味・読み・例文・類語

なむ[係助・終助]

[係助]《上代の係助詞なも」の音変化。「なん」とも》名詞活用語の連用形・連体形副詞助詞に付く。
上の事柄を強く示す意を表す。
夜半よなかうち過ぐるほどに―、絶えはて給ひぬる」〈桐壺
(文末で)上の事柄を強く示すとともに余情を残す意を表す。…てねえ。
「ましていとはばかり多く―」〈・桐壺〉
[補説]中古の散文、特に会話文で多く用いられた。文中にある場合、これを受ける活用語は連体形となるのが原則である。ただし受ける語が接続助詞を伴って下に続く場合は、連体形で結ぶとは限らない。また、2のように結びが省略されることもある。同じ係助詞の「こそ」や「ぞ」に比べて語勢は弱いといわれる。
[終助]《上代の終助詞なも」の音変化》動詞型活用語の未然形に付く。他に対してあつらえ望む意を表す。…てほしい。…であってほしい。
「ま遠くの野にも逢は―心なく里のみ中に逢へる背なかも」〈・三四六三〉

な◦む[連語]

[連語]《完了の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む(ん)」》
推量を強調する意を表す。きっと…だろう。…にちがいない。
「世の中の憂きたびごとに身を投げば深き谷こそ浅くなり―◦め」〈古今・雑体〉
意志を強調する意を表す。必ず…しよう。…てしまおう。
「舟に乗り―◦むとす」〈土佐
可能の推量を強調して表す。…することができよう。
「この御方々のすげなくし給はむには、殿の内には立てり―◦むはや」〈・常夏〉
適当・当然を強調して表す。…てしまうのがよい。…のはずだ。
「それ(=スグレタ文才)もすたれたる所のなきは、一生この事にて暮れにけりと、つたなく見ゆ。今は忘れにけり、と言ひてあり―◦ん」〈徒然・一六八〉
(多く「なむや」の形で敬語とともに用いられ)相手を勧誘する意を表す。…たらどうだ。…てくれないか。
「忍びては参り給ひ―◦むや」〈・桐壺〉

なむ[助動]

[助動][○|○|なむ|なむ|なめ|○]《上代東国方言》動詞・動詞型活用語の終止形に付く。推量の助動詞「らむ」に同じ。→なも[助動]
「国々の社の神にぬさ奉りが恋すなむいもがかなしさ」〈・四三九一〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「なむ」の意味・読み・例文・類語

なむ

〘係助〙 (上代の係助詞「なも」の変化したもの) 体言またはこれに準ずる語句、および連用語を受け、説明的に事物をとりたてて示す。中古の会話文および解説的性格の散文に多く用いられる。
① 文中にあって係りとなり、文末の活用語を連体形で結ぶ。
類聚国史‐一一・祈祷上・貞観一〇年(868)閏一二月一〇日「告文曰、〈略〉此又皇大神の厚助なりと奈无(ナム)歓崇ひ所念行す」
源氏(1001‐14頃)桐壺「三位の位おくり給ふよし、勅使来て、その宣命読むなん、悲しきことなりける」
② 「なむ」を受ける活用語を省略して余情を表わす。
蜻蛉(974頃)中「きこえさすべきかたなくなん」
[語誌](1)「なむ」の性格は係助詞の中においては、やや特異である。(イ)(A)原則として、「む」「らむ」「けむ」「まし」といった推量系助動詞が結びにならない、(B)「うれしくてなむ」のように、結びが省略される場合が他と比べて目立つ、(C)和歌にはほとんど用いられない、などの文体的制約がある。(ロ)(A)散文で使用される場合には、物語作品に多く日記作品に少ない、(B)文の種類としては、地の文、会話文に多く、心話文には少ない、(C)もっぱら和文資料において用いられ、訓点資料には例を見ない、などの特徴を有す。
(2)平安時代初期から中期にかけて盛んに用いられ、「なむ…ける」の呼応によって、いわゆる「物語る文体」を織りなし、「伊勢物語」「源氏物語」等の物語文学作品において、特徴的な文体を形成することとなった。
(3)連体形となるべき結びの活用語が、接続助詞に吸収されたり、終止形をとったりする場合もある。

な‐・む

(完了の助動詞「ぬ」の未然形に推量の助動詞「む」の付いたもの。動詞の連用形に付く)
① 動作・状態の実現すること、完了することを確認し推測する意を表わす。…するようになるだろう。…になってしまうだろう。きっと…だろう。
※古事記(712)下・歌謡「八田(やた)の 一本菅は 子持たず 立ちか荒れ那牟(ナム)あたら菅原」
② 動作・状態を実現しようとする強い意志を表わす。きっと…しよう。
※万葉(8C後)三・三四八「今(こ)の世にし楽しくあらば来む生(よ)には虫に鳥にもわれは成り奈武(ナム)
③ 動作・状態の実現を適当であるとする、また、適当であるからそうした方がよい、と勧誘する意を表わす。…した方がよいだろう。…したらどうだろう。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「夜は明け方になり侍りぬらん。はや帰らせ給なんと聞こゆれば」
④ 動作・状態の実現を可能であると推量する意を表わす。…することができるだろう。…でもかまわないだろう。
※平家(13C前)六「此中には汝ぞあるらむ。あの物射もとどめ、斬りもとどめなんや」

なむ

〘終助〙 文末にあって動詞・助動詞の未然形を受け、ある行動・事態の実現を期待し、あつらえ望む意を表わす。→語誌。
※古事記(712)上・歌謡「青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出(い)で那牟(ナム)
※源氏(1001‐14頃)夕顔「惟光とく参らなんとおぼす」
[語誌](1)「なも」が古形と思われるが、「万葉集」でもすでに「なむ」の方が優勢である。
(2)終助詞による希望表現とされる用法には(イ)自らの行動の実現を希望するものと、(ロ)他者の行動の実現を希望するものがあり、これにはまた(A)二人称者の行動に関する場合、(B)三人称的なものの行動・状態に関する場合がある。「なむ」は(B)に相当する。
(3)願望の対象に対して積極的に働きかけるのではなく、自分の手の届かない事柄の実現を、いわば、他力本願的に願うのが本義である。上接する助動詞が「ず」「ぬ(完了)」「る(受身)」といった非意志性のものに限られる文法的特徴が見られ、心話文に多く用いられ、会話文で相手に面と向かって用いることがないという文体的特徴もそうした本義を反映している。

なむ

〘助動〙 (活用は「○・○・なむ・なむ・なめ・○」) 推量の助動詞「らむ」に相当する上代東国方言。終止形・連体形にあたるものとして「なむ」、「なも」「かも」につづく形として「なめ」の形がみられる。→なも〔助動〕
※万葉(8C後)一四・三三六六「ま愛(かな)しみさ寝に吾は行く鎌倉の水無瀬川(みなのせがは)に潮満つ奈武(ナム)か」
※万葉(8C後)二〇・四三九〇「群玉の枢(くる)に釘刺し固めとし妹が心は揺(あよ)く奈米(ナメ)かも」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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