J.S.バッハの未完の大作(BWV1080)。14曲のフーガと4曲のカノンから成る曲集で,全体が1個の基本主題(図1)とそのさまざまな変形に基づいている。フーガの中には単純フーガ(4曲),反行フーガ(3曲),二重フーガ(2曲),三重フーガ(2曲),鏡像(投影)フーガ(2曲)などが,カノンの中には単純カノン,拡大反行カノンなどが含まれ,きわめて高度な作曲技法を駆使して,中世,ルネサンス時代以来の歴史をもつ対位法技術の集大成が成し遂げられている。最後のフーガは,作曲者の名を表すBACH(変ロ・イ・ハ・ロ)の第3主題(図2)が現れた直後に中断されて未完のまま残された。従来はバッハの最晩年,1749年ころの作と考えられていたが,近年,40年代初期に大半が書かれたとする説も提出された。また,自筆譜(東ベルリンのドイツ国立図書館)と作曲者の死後(1751か52)に現れた初版譜の間には,曲数や配列順序に大きな相違があるため,全体の構成に関するバッハの最終的意図をめぐって今日まで諸説が対立している。さらに,作曲者が楽器を指定しなかったため,この曲集は久しくフーガとカノンの範例集にすぎないと考えられていた。この曲集全体が初めて公開の席で演奏されたのは1927年のことで(K. シュトラウベ指揮のライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団),それ以来,《フーガの技法》は西欧の最も偉大な精神遺産とみなされるようになった。
執筆者:角倉 一朗
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…1742年)のような世俗曲で明快な和声的書法をみせるかたわら,フリードリヒ大王にささげられた《音楽の捧げもの》(BWV1079。1747年)や未完の大作《フーガの技法》(BWV1080。1749年)においては難解な対位法技術の集大成が試みられている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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