改訂新版 世界大百科事典 「ブッククラブ」の意味・わかりやすい解説
ブッククラブ
book club
定期的に書籍を頒布し優良図書の普及をはかる会員制組織。一般にはブッククラブが,選定した書物の原出版社から許可を得て廉価なブッククラブ版book club editionを作り,会員に配布するシステムを取るが,原出版社の大量在庫を安く買い取ったり,あるいはブッククラブ版の刊行を同時に原出版社に依頼する場合もある。この方式は,会員さえ集まれば安定した需要が望めることなど,ブッククラブ側にも経営面の魅力がある。しかしペーパーバックスや文庫本など安価な書物が市場にあふれだした1970年代以降は,ブッククラブの存在意義のうち,安価な本の供給という部分が薄れだし,また読者の好みが多様化し選書機能を果たすことも難しくなりつつある。
会員組織を基本として読書習慣を普及させる方式は,欧米では18世紀ごろ盛んになった貸本屋で用いられており,選書の機能もある程度果たされていた。また会員に書物を売るという出版形態は,いわゆる予約購入subscriptionの延長として広く行われていたが,これらは個人的営為の範疇を出ず,出版流通全般の改革をめざしたブッククラブの理念にまでは至らなかった。本格的ブッククラブは,戦禍により書籍の入手難がつづいた1919年のドイツに成立し,〈本の友国民協会Volksverband der Bücherfreunde〉が会員100名ほどで古典文学作品を復刻販売したのが最初といわれる。また書店や図書館のない広大な地域を有するアメリカでは,シャーマンHarry Scherman(1887-1969)が26年に〈ブック・オブ・ザ・マンス・クラブBook-of-the-Month Club〉を発足させ,最初の選定図書にS.T.ウォーナーの長編小説《ロリー・ウィローズ》を選んだ。この組織は当初4000人の会員からスタートして40年代には90万人を数えるまでに成長した。アメリカではこれをきっかけに大小100以上ものクラブが林立し,全アメリカの書籍売上げの約10%を占めるといわれる。西ドイツでは50年にベルテルスマンBertelsmann社が〈レーゼリングLesering〉を組織,書店を通じて配本を行うなどの方式を成功させ,300万人もの会員を擁する世界最大のブッククラブとなった。
日本では69年12月,外資系ブッククラブの進出計画が明らかになったことをきっかけに,出版,取次,小売の三者協力による〈全日本ブッククラブ〉が設立された。これは西ドイツ方式にならい,小売店を通じ会員を獲得するものだったが,業績不振により73年に解散した。また,70年に〈学校図書館ブックセンター〉,80年に〈日本ブッククラブ〉が作られ,会員に図書を推薦し,安価購入の斡旋などを行っている。ブッククラブは流通と消費者対策に独自の働きかけを行いながらも,あくまで利潤をめざす企業活動である点に限界をもつ。とくに委託販売制度を中心に本の販売が行われている日本では,新しい流通方式をとるブッククラブが既存の書店と利害衝突を起こしやすく,欧米並みの大組織には育ちにくいといえよう。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報