日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブリュンチエール」の意味・わかりやすい解説
ブリュンチエール
ぶりゅんちえーる
Ferdinand Brunetière
(1849―1906)
フランスの文学史家、批評家。トゥーロン出身。パリに出てルイ・ル・グラン高等中学に学ぶ。高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)の入試に失敗したが、独学でフランス文学研究に打ち込み、のち同校教授となり(1886)、多くの文学者を育てる。これより先『両世界評論』の執筆者になり、のち主筆となる。同誌に載せたエッセイの集成たる『自然主義小説』Le Roman naturaliste(1883)で、批評家としての地位が確立する。ゾラをはじめとするいわゆる自然主義作家たちの欠陥、観察の貧弱さ、文体の粗雑さ、細部の理由なき誇張などを指摘すると同時に、彼らとはまったく無縁な、偉大なる17世紀を代表する古典派大作家たちの自然崇拝を見直して、それを「古典派の自然主義」とよんだ。これらの作家の自然概念は、ゾラのそれとは異なり、人間的自然あるいは本性にほかならないのである。ブリュンチエールは17世紀の巨匠たちに文学の理想をみいだすとともに、偉大なる説教家ボシュエに傾倒した。ボシュエの代表作『世界史序説』(1681)なくして、ブリュンチエールの『フランス文学史序説』(1897)は考えられない。そしてボシュエの「叙情性」の同質的延長なくしては『19世紀フランス叙情詩の進化』(1894)も構想されえなかったであろう。そのほか『フランス文学史に関する批評的研究1~9』(1880~1925)、『文学におけるジャンルの進化』(1890)、『フランス古典文学史1~4』(1904~1917)、晩年の小傑作『オノレ・ド・バルザック』(1906)などがある。アカデミー会員。
[松崎芳隆]
『関根秀雄訳『仏蘭西文学史序説』(岩波文庫)』