自然物、自然現象に対する尊敬や畏怖(いふ)の態度の総称。naturismの訳語として用いられる。一般的には、天体(太陽、月、星)、気象現象(風、雨、雷)、諸地形(山、川、海、湖)などから、人間以外の動植物や岩石に至るまで、崇拝の対象範囲はきわめて広い。ただし、まれに動植物を除外し、非生物的な物体、現象に対するもののみをさす場合もある。
アニミズムanimism、マナ崇拝(マナイズムmanaism)などとしばしば混同して用いられる場合があるが、本来はそれぞれ別個な概念である。アニミズムはE・タイラーの定義によれば、生物・無生物を問わず万物に霊魂(スピリット)が宿るという考え方であり、究極的には宿る対象から離れて独自に存在しうる霊魂への信仰を前提としている。確かに自然崇拝の一部はこのような形態をとるが、そうでない場合もある。たとえばナイル川上流に住むヌエルの人々の間では、クスとよばれる精霊への信仰があるが、クスには天のクスと地のクスがある。天のクスは空中に存在し、ときおり人に憑(つ)いたりする。一方、地のクスには、一定の部族と結び付いたトーテム動物・植物のクス、川・火・隕石(いんせき)など自然のクス、木片など特別な呪物(じゅぶつ)のクスがある。このように、ヌエルの地のクスの多くは、自然物や現象に結び付いており、その限りでは自然崇拝として記述することができよう。しかし、天のクスはかならずしも自然崇拝には結び付かない。すなわち、ヌエルのアニミズム的信仰体系のうち、自然崇拝とよびうるものは、その一部を構成しているにすぎない。
また逆に、すべての自然崇拝がアニミズム的であるということもできない。自然崇拝とよばれるもののなかには、精霊または霊魂観念を含まないものもあるからである。たとえばカリフォルニアの先住民は、樹木はその下を通る者の頭上に枝を落下させて人を殺すことができると信じるが、この場合彼らは樹木に宿っている精霊の存在を信じているわけではない。樹そのものにそうした能力があるとして恐れるのである。このように無生物や植物などに能動的な力があるとする信仰をアニマティズムとよぶこともある。マナイズムも霊魂の存在を前提とせず、超自然的な力そのものが物体その他に宿ると信じる点でこれと共通している。したがって、マナイズムが自然崇拝に結び付く場合もあるが、超自然力を保有する主体が自然物や自然現象に限られず、人間、たとえば首長の身体などとされる場合もある。特定の物体のもつ呪力への信仰をフェティシズムとよぶが、この場合は自然物のみでなく人工物をも包括する。
上述のアニミズム、アニマティズム、マナイズム、フェティシズムなどは、自然崇拝と並んで、未開社会の宗教の特色を、それぞれ異なった側面からとらえようとしたものであり、いずれも宗教の始原形態に関する学説とかかわってきた。とくに初期の宗教学においては、自然現象や自然物の崇拝を低次で原始的な宗教形態とみなす傾向があった。
人類学においても、J・フレイザーは、自然物の呪力への信仰とその統御を目ざす行為を呪術とよんで宗教とは区別した。個々の自然物に宿る呪力や霊魂への信仰を超えた、超越的存在者への信仰を、彼は宗教の必須(ひっす)条件と考えたのである。こうした考え方の背後には、キリスト教的な宗教観による偏向が存在したことは否定できない。このような説は、未開社会のなかにも一神教的最高神の観念が存在することを指摘したW・シュミットの原始一神教説などを経て解体し、今日では顧みられない。宗教はおのおのの社会において独自であり、きわめて雑多な諸形態を自然崇拝として一括することにはさほど意味がない。
しかし、宗教的次元における人間と自然物・自然現象とのかかわり合い方は、なおかつ重要な問題である。特定民族にとり、なにゆえにその自然環境のなかの事物や現象のなかから一定要素が信仰・崇拝の対象となったのかという問題である。それをまったくの歴史的伝播(でんぱ)の所産であるとする立場もあり、また諸要素の心理学的価値を重視する考え方もある。さらには人間の思考の基本構造と結び付けて考える立場もある。いずれにせよ、自然物や自然現象の崇拝は、おのおのの民族のもつコスモロジー(宇宙観)の一部を構成するものとして重要な意味をもっている。それは人々の居住空間のあり方とも密接な関係を有し、たとえば移動性の高い採集狩猟民の場合、崇拝される自然物や自然現象は、彼らの活動の場としての森や山や草原の中で随時出会うものとして認識される傾向があるのに対し、定住的な農耕民の場合、人間の居住空間とその外側の世界の区分は明確で、自然物の精霊などは日常生活の空間から排除されていることも多い。
[瀬川昌久]
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