フランスの宗教家。ディジョンの名家に生まれ,幼い頃から聖職に入る。1652年にメッスの司祭に任じられ,バンサン・ド・ポールに親しむ。59年からパリに定住して名説教で世評を高からしめた。70年に王太子の師傅に選ばれ,10年間その教育を担当した後,81年にモーの司教となる。この頃から教会の真の主宰者の地位を占め,国王と教皇の間を斡旋し,ナントの王令の廃止に先立ちプロテスタンティズムを否定する論陣を張り,フェヌロンの静寂主義を論破し,演劇の反道徳性を糾弾するなど,きわめて活動的な生涯を送る。《説教集》と《追悼演説集》の文学的価値は高く,前者では1662年の〈死について〉,後者では70年のオルレアン公妃に献げた演説は,同じように死についての省察を含み,格調の高い雄弁はそのまま古典主義の典型となる文体で,17世紀を代表する散文に数えられる。王太子教育の成果である《世界史叙説》(1681)は,世界は神の摂理によって永久普遍に支配されるとする史観に立ち,シャトーブリアン等に深い影響を及ぼした。プロテスタントとの宗教論争の主著である《プロテスタント教会変異史》(1688)は,綿密な考証をふまえて史書としての価値を失わない。《喜劇に関する箴言と省察》(1694)においては,よき慣習を害するものとして喜劇を攻撃するが,別のところで悲劇もまた恋愛の情念を描くゆえに否定する。その演劇批判はジャンセニスムに通じるものがあるが,新旧論争の古代派の領袖でもある自身の文学観にもとづき,古代文学の崇高性を追求すべしという主張と切り離せない。ギリシア悲劇のフランス化は許容しているのである。比較文学者P.アザールはボシュエを去りゆく古典主義時代の最後の人物で,新しい時代の到来を拒否する悲しい象徴とみなすが,彼の強烈な精神は最後まで保たれている。
執筆者:戸張 智雄
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フランスの神学者、歴史家。神権王制の理論を大成した聖職者。弔辞文学の独創者でもある。ディジョンで誕生。パリに出て神学を修める。32歳で司教となり、以後説教家として声望を博した。アンリエット・ダングルテールHenriette d'Angleterre(1609―1669)、ル・テリエLe Tellier(1603―1685)、コンデ公(ルイ2世LouisⅡ de Bourbon。1621―1686)らへの弔辞で知られる。1670年ルイ14世の王太子の師傅(しふ)となる。『世界史論』Discours sur l'histoire universelle(1681)により、普遍的な摂理の軌道に明滅する神と人間の交流を描き、創造者から祝福された王権の正統性を立証し、王を神の地上の代行とみる、いわゆる「王権神授説」を補強。ブルボン王朝の公的な政治理論を確立した。さらに1688年『プロテスタント教会変遷史』を著し、カトリック教会擁護のための論陣を張る一方、フェヌロンの静寂主義(キエティスム)の神秘論をも厳しく批評した。晩年はモーの司教として、健筆を振るい、神学の著述に従った。文体は荘重で、格調に富み、古典主義を代表する文人の評が高い。
[金澤 誠 2017年12月12日]
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1627~1704
フランスの司教。多くの優れた説教,追悼演説を残すほか,1670年,王太子の教育係に任じられ『世界史論』『聖書による政治学』などで神学的歴史・政治理論を展開。プロテスタントやフェヌロンとの論争も重要である。
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…イタリアの現状救済を第一義としてローマ盛衰原因論を考えたマキアベリは,ポリュビオスの政体循環論を継承しつつ,共和政体をよしとし,カエサル以後の独裁を堕落形態とした。 なおキリスト教的史観はルネサンス以後完全に払拭されたわけではなく,ボシュエの《万国史論》は,私利と暴力の支配などさまざまなローマ没落原因を考察しながらも,なおアウグスティヌス的摂理史観を基幹としていた。啓蒙主義時代に入り,モンテスキューの《ローマ人盛衰原因論》は軍隊の力の増大と,元老院と衆愚に堕した人民の力の逆転に没落の主因を求めた。…
※「ボシュエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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