一般には,〈荒れはてた〉〈見すてられた〉〈無人の〉〈たんなる〉という意味をもつ語であるが,学術用語としては次の二つの意味に用いられる。
(1)自然地理的には,一般に温暖で降雨が少なく木のない草地や荒地を意味する場合と,特殊的に,ドナウ川以東のハンガリー大平原(アルフェルドAlföld)の中の最も乾燥した砂質の草地を意味する場合がある。後者は,ホルトバージやブガツなどの地方に代表される。かつてはまったく木がなく,戦間期になっても粗放な牧畜(牛,馬,羊)が行われていたが,第2次大戦後は灌漑が進み,農耕や園芸が行われるようになった。ヨーロッパ大陸の中では特異な風景であったので,長らくヨーロッパ人の関心を引いた。
(2)歴史的には,ドナウ川以西のハンガリーにある大地主経営の農場をさす。これはほぼ16世紀の間に成立した領主制農場経営に発する。そこでは領主に農奴が再び身分的に従属して賦役をした(〈再版農奴制〉という)。19世紀に入って農奴は身分的に解放されたが,領主経営は土地なし農奴を定住雇農として利用して地主経営(ユンカー経営)に移行した。この地主経営農場は閉鎖された一世界をなし,まわりの村との交渉も皆無に近かった。こうした世界をプスタと人々はよんだ。1930年代に入り,ハンガリーの民族的危機が痛感されたとき,プスタの人々の間に残るハンガリー民族の伝統を見直そうとする動きが広まった。その典型的なものがイェーシュ・ジュラの著書《プスタの民》(1936)であった。これはそのときまで一般のハンガリー人も知らなかったようなプスタの人々の生活状態や思考様式を描き出し,今日でもなお広く読まれている。
執筆者:南塚 信吾
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ハンガリー平原(オルフェルド)の東部にかつて広がっていた温帯性の長茎草原のこと。地域名称も兼ねる。ハンガリー平原には氷河時代に堆積(たいせき)した厚いレス(黄土)が分布しており、それは年間600ミリメートル程度の少ない降水量と相まって、そこに草原をつくりだした。また腐植層の厚い肥沃(ひよく)な土壌を生じさせた。しかし降水量に年ごとの増減が大きく、しばしば干魃(かんばつ)にみまわれたため、開発は遅れ、多くの部分が草原のまま長く放置されてきた。プスタというのはこうした草原につけられた名称で、もともとはハンガリー語で荒れ地を意味していた。しかし19世紀後半、この地方がトルコの支配を脱してから急速に耕地化が進み、現在ではほとんどが耕地である。小麦、トウモロコシ、根菜類、タバコ、ヒマワリなどが栽培されるほか、ウシやウマも多数飼育され、東ヨーロッパの穀倉地帯となっている。
[小泉武栄]
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【自然】
カルパチ(カルパティア)山脈に囲まれ,ドナウ川本流とその支流ティサ川の流域に広がるハンガリー盆地にあり,国土の大部分は平野であるが,ドナウ川を境に多少の変化がある。ドナウ川の東はアルフェルドAlföldと呼ばれる大平原で,その大部分は19世紀後半までは湿地帯だったが,治水が進むと逆に水の乏しい砂質の草地(プスタ)となり,第2次大戦後は大規模に灌漑され耕地化されている。ドナウ川以西は,北部の小アルフェルドを除けば,緩やかな起伏の台地であり,その間に東西に長く,中欧最大の湖バラトン湖がある。…
※「プスタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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