改訂新版 世界大百科事典 「プラトン数」の意味・わかりやすい解説
プラトン数 (プラトンすう)
number of Plato
西洋における聖数の代表例で,12960000をいう。プラトンの《国家》第8巻に言及があることに由来し,アダムJ.Adamに代表される次のような解釈が有力である。すなわち,12960000=216×60000であり,ここで216は人間が母胎にとどまる最短の日数を示すとされる。216はさらに,33+43+53,63,35×6+6の形に書き直せるが,これらはそれぞれ216が,ピタゴラス学派以来宇宙の要素を表す数として尊重された3,4,5の3乗の和,結婚数6(男性数3×女性数2)の3乗,調和数35(6+8+9+12)の6倍と結婚数6の和であることをも示す。一方,12960000=360×36000と考えれば,1年を360日とした場合の36000年を指すことになるが,これはいわゆる〈プラトン大年magnus Platonicus annus〉(プラトン年Platonic yearまたは単に大年great yearともいう)に一致する。〈プラトン大年〉とは,現在では一般に,春分点が歳差によって黄道を一周するのに要する時間(約26000年)とされているが,古くは,地球をめぐる8天体(太陽と7惑星)が元の位置に戻るのに要する時間をいい,36000は〈完全数〉の名で呼ばれることもあって宇宙の更新が行われる聖なる周期と考えられていた。後世の学者,例えばT.ブラーエはこれを25816年,リッチオリは25920年などと算出している。
このように12960000は,それ自体聖数である象徴性の高い数字から成るばかりでなく,小宇宙(ミクロコスモス)たる人間と大宇宙(マクロコスモス)の生成・発展・回帰にかかわり,それを統御する数と考えられ,特別の関心が払われてきたのであった。その意味で,インドにおける第2番目のユガであるトレーター・ユガが1296000年,中国北宋の学者邵雍(しようよう)が《皇極経世書》で述べる一元が129600年と,桁こそ違えプラトン数と不思議な暗合を示すことは興味深い事実であり,古代バビロニアにさかのぼる聖数観の東西への伝播も推測される。
なおプラトンの名が冠せられるものに〈プラトン立体Platonic solid(body)〉として知られる図形がある。五つの正多面体(正四面体,正六面体,正八面体,正十二面体,正二十面体)の別称で,《ティマイオス》に記述されていることによるが,正四,六,十二面体はピタゴラス学派の,正八,二十面体はテアイテトスTheaitētos(前4世紀)の発見によるという。ヒッパソスHippasosなるピタゴラス学派の学者が正十二面体の秘密を漏らしたため溺死したという伝承があり,後世ケプラーがこの〈プラトン立体〉を組み合わせて宇宙モデルを構想したことも有名だが,いずれもそこにはプラトン数と同様,数およびその具体化である図形を神秘的なものとして考える態度がうかがえる。
→数
執筆者:松宮 由洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報