改訂新版 世界大百科事典 「ベイズの定理」の意味・わかりやすい解説
ベイズの定理 (ベイズのていり)
Bayes' theorem
ベーズの定理ともいい,イギリスの数学者ベーズThomas Bayes(1702-61)にちなむ。全体が排反事象H1,H2,……,Hk,……に分かれていて,それらは起こりうる仮定を表しているとする。このときEという事象が観測されたとしよう。Hiが起こったと(その確率P(Hi)は0でないとする)Eの条件付き確率P(E/Hi)は,
P(E∩Hi)/P(Hi)
で表され,また仮定から,だから,確率の計算,により,を得る。
よってP(Hi/E)=P(E∩Hi)/P(E)
に上式をあてはめて,
が得られる。これがベイズの定理で,Eが観測されたという条件のもとで仮定Hiの確率P(Hi/E),すなわちHiの事後確率を与えるものである。P(Hi)は事前確率とも呼ばれる。例えば全国の家庭を調べ,ちょうどi人の子どもをもつ(仮定Hi)確率がpiだとする。。いまそれが男子ばかりの家庭であることがわかったとき(これを事象Eとする),ひとりっ子の家庭(すなわちH1)である確率P(H1/E)を求めよう。一般に男女の出生率に違いがないとしてよいとすれば,i人の子どもがあって全部男子という確率は1/2iと考えられる。すなわちP(E/Hi)=1/2i。よってベイズの定理から,ひとりっ子である事後確率は,である。ところが,このベイズの定理に対して,形而上学的な見地から,機械的に応用することに強い批判がある。事前に情報がないときは,起こりうるいくつかの可能性はすべて同程度に確からしいとすることに問題があるからである。これまで5000年の間,毎日太陽は東から昇った。明日も東から昇る確率はいかにといった例を考えたらその理由が推察される。具体的な問題に応用するときには注意が必要である。
ベイズの定理は一般化され,数理統計学で用いられるときは次のような形で述べられる。それはパラメーターθをもつ確率変数Xの分布の密度関数f(x/θ)と,θの事後分布の密度関数p(θ/x)との関係を示すもので,θの事前分布の密度関数がp(θ)ならp(θ/x)は,
で与えられることを主張する。これもよく用いられるにもかかわらず,事前確率が数値的に明確でないときに用いることの批判を巡って,かなりの論争があり現在も続いている。
執筆者:飛田 武幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報