改訂新版 世界大百科事典 「ベラール」の意味・わかりやすい解説
ベラール
Christian Bérard
生没年:1902-49
フランスの舞台装置家。画家だった彼が初めて舞台に接触するのは1934年,コクトーが《地獄の機械》の台本を渡すと同時に,ベラールをL.ジュベに紹介してからである。以来,彼とジュベとの親交は続き,36年に上演されたモリエール《女房学校》(アテネ座)の装置により,舞台装置家の地位は確立した。ジュベとの関係から,彼はジロードゥー劇の装置を多く手がけるが,なかでも宙吊りの窓をもつカフェのテラスを案出した《シャイヨの狂女》(1945。アテネ座)の舞台は傑作とされる。その特色は明確な線と色彩が立体感とみごとに調和し,フランス人の好みにふさわしい明晰(めいせき)さと優雅さを舞台にもたらした点にあり,今日では装飾的にすぎるという批判はあるが,両大戦間のフランス演劇の開花にとっては不可欠な才能であった。バレエの舞台の仕事も多い。49年,ジュベ演出によるモリエール《スカパンの悪だくみ》(マリニー座)の稽古の終了後,劇場で事故死した。
執筆者:大久保 輝臣
ベラール
Antoine Vérard
生没年:?-1513か14
フランスの出版者。初め細密画家・書家として写本制作に従事していたが,活字本の発展によりその出版に転じた。1485年ボッカッチョの《デカメロン》のフランス語訳を創業出版してから,1512年までに現在明らかな限り200点以上を刊行し,この時期のパリで最も活発な活動を示している。当時の出版界は圧倒的にラテン語本で占められていたが,彼はフランス語本のみを活字化することに専心し,《ランスロ物語》や《サン・ヌーベル・ヌーベル》や《薔薇物語》などの中世文学,フロアサールその他の史書,あるいはアリストテレス,オウィディウス,テレンティウスなど古代ギリシア・ローマ作品のフランス語訳を,有能な版画家たちによる大小の木版挿画を多数入れ,変形ゴシック活字バタルドで印刷させて出版している。挿画入り《時禱書》を初めて活字化したのも彼だし,皮紙に印刷した手彩色細密画入り特製本は美術史的にも貴重なものである。
執筆者:二宮 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報