改訂新版 世界大百科事典 「マラーティー語」の意味・わかりやすい解説
マラーティー語 (マラーティーご)
Marāṭhī
インド語派(インド・アーリヤ諸語)に属する大言語の一つ。中・西部インドで話される。1960年のマハーラーシュトラ州成立後は同州(人口6000万,1981)の公用言語となる。プネー(プーナ)市を中心として話されるものが標準で,東部のナーグプルや南部のカンナダ語との境界地域ではかなり異なる方言が発達し,ゴアにいたる海岸部ではコーンクニーKonknī語がある。サンスクリットの流れをくみ,マハーラーシュトリーというプラークリット語から発展。文字はサンスクリットやヒンディー語同様デーバナーガリー文字を用いるが,かつてマラーター王国期に公式に用いられた崩し字のモーディー体も伝わっている。サンスクリット本来の格変化はないが,斜格形に多くの後置詞を付したものがこれに代わる。動詞も多様に語尾変化するが,とくに分詞形の役割が大きい。名詞の性として男・女性のほかに中性形を残している。
この語の最も古い記録は現在のカルナータカ州シュラバナベルゴーラの神像に彫られた刻文(982)とされる。後世に残る文学作品は13~18世紀の聖賢詩人(サント)たちによるものが最初で,当時の民衆語で書かれたその多くの宗教詩はこの地域の宗教改革運動に大きな役割を果たすとともに,言語としてのマラーティー語の伝播,発展を助けた。とくにジュニャーネーシュワルの《バガバッドギーター》注釈書(1290)や,ナームデーオ,トゥカーラームの信仰詩(アバング)は有名。19世紀以降韻文,散文ともに近代的文学の発展がみられ,今日インド内でも最も豊富ですぐれた文学作品を生み出している言語である。
執筆者:内藤 雅雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報