ギルバート(William Gilbert)
ぎるばーと
William Gilbert
(1544―1603)
イギリスの医師、物理学者。磁気研究で名高い。コールチェスター生まれ。1558年ケンブリッジ大学セント・ジョーンズ・カレッジに入学、1561年学士、1564年修士、1569年医学博士号を取得。1573年ロンドンで開業し、1600年には内科医組合会長となった。エリザベス1世の侍医も務めた。
1600年に出版された主著『磁石について』は近代実験科学の古典である。全6巻で、第1巻では磁石についての研究の歴史を検討して俗説を退けるとともに、磁気現象を扱うのに地球が大きな磁石であるという仮定を導入した。第2巻以降は、各巻ごとに、相互引力、指向性、偏角、伏角、回転という磁石の五つの性質を取り上げている。とくに当時、航海と関係した伏角については、船乗りのノーマンRobert Normanの著作から多く学んでいる。またこの著では「小地球」とよんだ小さな球状磁石を用いての実験や、強化磁石の実験など、自らが行った実験、発見を明示するなど新しい科学の特徴を示している。また、それまでは同一に扱われていた琥珀(こはく)の吸引作用を磁気とは区別して、エフルビア(発散気)によるものとしてエレクトリック(琥珀性の意)=電気という名称を初めて用い、その検出装置をくふうした。
彼の磁気による地球の自転や地磁気の作用圏といった考えはケプラーに影響を与えたが、彼の死後1651年に出版された『月下界についての新哲学』では、磁石についての考えを拡張して、宇宙論、自然学、気象学を論じている。起磁力の単位ギルバートGbは、彼の業績にちなんでつけられた。
[高田紀代志]
『三田博雄編『ウィリアム・ギルバート 磁石論』(1981・朝日出版社)』
ギルバート(Walter Gilbert)
ぎるばーと
Walter Gilbert
(1932― )
アメリカの分子生物学者。ボストンに生まれる。ハーバード大学で化学と物理を学び、1953年に卒業し同大学の大学院に進学、ついでイギリスのケンブリッジ大学で1957年博士号を取得した。同年ハーバード大学に戻り、物理学助教授を務めていたが、1960年J・D・ワトソンの影響を受け、専攻を生物学に変更した。1964年から生物物理学準教授、1968年に生化学教授となり、1972年から同大学のアメリカがん協会分子生物学教授についた。
1960年代中ごろから生物学の本格的研究に着手した。大腸菌を用いてリプレッサー(遺伝子の作用を抑制する)タンパク質の分離、精製に成功、その性質について研究した。1977年には、F・サンガーの開発した「プラス・マイナス法」とは異なるDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列決定法を開発した。これはDNAの特定部分を切断する酵素を用いるもので、サンガーの方法より簡単に早く配列を決定でき、共同研究者の名とともにマクサム‐ギルバート法とよばれている。この業績により、1980年にノーベル化学賞をサンガーとともに受賞、DNA組換えの研究によるP・バーグも同時に受賞した。
[編集部 2018年7月20日]
ギルバート(Sir Joseph Henry Gilbert)
ぎるばーと
Sir Joseph Henry Gilbert
(1817―1901)
イギリスの農芸化学者。農学全般にわたる研究の業績で知られる。ドイツのギーセンでリービヒのもとで有機化学を学ぶ。帰国後、ロザムステッドの農業研究所に入り、設立者ローズとともに、植物の生育に関する生理学、窒素肥料の効果と土壌微生物の研究の開発に貢献した。硫酸ナトリウムの施用により作物のカリウム摂取量が増加することを発見するなど、農作物に対する化学肥料の効用の研究が優れていた。1884年よりオックスフォード大学の教授を務めた。
[浅海重夫]
ギルバート(Sir William Schwenck Gilbert)
ぎるばーと
Sir William Schwenck Gilbert
(1836―1911)
イギリスの劇作家。公務員や弁護士の仕事をするかたわら雑文や戯曲を書き、鋭い風刺を機知とユーモアで包んだその作風が高く評価されることもあったが、なんといっても彼の名声を不朽にしたのは、1871年から25年間に作曲家のA・サリバンと組んでつくった14編の喜歌劇であった。これらは『軍艦ピナフォー』(1878)、『ペンザンスの海賊』(1879)、『ミカド』(1885)を代表作とする軽妙なコミック・オペラで、社会の陋習(ろうしゅう)や人間の偽善に対する風刺、機知に富んだ台詞(せりふ)、笑劇風のおかしみにあふれ、その大部分がロンドンのサボイ劇場で初演されたため、サボイ・オペラとよばれ、今日までイギリス人に親しまれている。
[中野里皓史]
ギルバート(起磁力の単位)
ぎるばーと
gilbert
CGS単位系の起磁力の単位。1ギルバートは4π分の10アンペア回数にあたる。Gbで表す。この単位は1903年ころから用いられていたが、当初は国際的には承認されず、1930年の国際電気標準会議において採択された。名称はイギリスの物理学者W・ギルバートの業績にちなんでいる。
[小泉袈裟勝]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ギルバート
Gilbert, William
[生]1544.5.24. コールチェスター
[没]1603.12.10. ロンドン/コールチェスター
イギリスの医者,自然哲学者。ケンブリッジ大学卒業,1569年学位取得。 1601年エリザベス1世の侍医となった。彼の磁気に関するさまざまな実験的研究,とりわけ地球全体を1つの磁石とみなして,今日でいう地磁気の諸性質 (なかでも伏角の発見) を明らかにした功績によって,近代磁気学の祖と評価されている。彼は宇宙の構造として近代的な体系,つまりコペルニクス説を信じたが,地球の自転や惑星の運動は磁気によるという神秘的な考えをもっていた。また,コハク (琥珀) や水晶を摩擦すると他の軽い物体をひきつけることを見出し,この現象を磁気と区別し,ギリシア語のエレクトロン (琥珀) にちなんで,エレクトリックと形容したのが今日の電気 electricityの語源となった。主著『磁石について』 De Magnete (1600) 。
ギルバート
Gilbert, James William
[生]1794.3.21. ロンドン
[没]1863.8.8. ロンドン
イギリスの銀行家。ロイヤル・ソサエティの会員で,銀行問題の著述家。 1813年から銀行員となり,33年に最初の株式銀行としてロンドンに設立されたロンドン・ウェストミンスター銀行の総支配人となった。この株式銀行に対して,イングランド銀行や個人銀行から攻撃,妨害が加えられたが,彼は株式銀行側の代表として,著述および議会での証言によってこれを克服,株式銀行発展のために貢献した。学問上では,「銀行業者は借主と貸主の間に立つ媒介者である。彼は一方より借りて他方に貸す。そして彼が借りる条件と貸す条件との差が彼の利潤の源泉となる」という,銀行機能における「信用媒介説」の古典的主張者として知られている。主著『銀行の歴史,原理および業務』 The History,Principles and Practice of Banking (1834) 。
ギルバート
Gilbert, Walter
[生]1932.3.21. ボストン
アメリカの分子生物学者。ハーバード大学卒業 (1953) 後,ケンブリッジ大学で数学と物理学を修め,1957年学位取得。ハーバード大学講師 (58) ,助教授 (59) ,理論物理学教授 (68) ,72年同大学分子生物学教授。 1960年代は遺伝子の働きを制御する分子の分画,精製,単離に成果をあげた。 77年弟子の A.マクサムとともに,デオキシリボ核酸の塩基配列を簡単に決定する方法として,連鎖分子を構成する4種の塩基中の特定の1つが占める位置においてのみ連鎖を分断する条件を発見した。これは「マクサム=ギルバートの方法」として広く利用されている。これにより,80年ノーベル化学賞を受賞した。
ギルバート
Gilbert, Sir William Schwenck
[生]1836.11.18. ロンドン
[没]1911.5.29. ミドルセックス,ハローウィールド
イギリスの劇作家。作曲家 A.サリバンと組んで数多くのコミック・オペラの台本を執筆,ギルバート=サリバン・オペラの名で知られた。これらは主としてサボイ劇場で上演されたため,サボイ・オペラの別称もある。代表作は『軍艦ピナフォア』 H.M.S.Pinafore (1878) ,『ペンザンスの海賊』 The Pirates of Penzance (79) ,『ミカド』 The Mikado (85,日本の天皇と吉原の生活がテーマ) など。 1907年ナイトの称号を受けた。
ギルバート
Gilbert, Cass
[生]1859.11.24. アメリカ,オハイオ,ゼーンズビル
[没]1934.5.17. イギリス,ハンプシャー,ブロッケンハースト
アメリカの近代建築家。マサチューセッツ工科大学に学んだのち,ヨーロッパに遊学,帰国後マッキム・ミード・ホワイト事務所で働く。ミネソタ州セントポールに移り,1896~1903年にミネソタ州会議事堂を建設。ニューヨークに戻り,税関 (1907) ,ユニオン・クラブ (06~07) を手がけ,ゴシック様式の 60階建ての摩天楼ウールワースビル (11~13) を建てて,当時最も有名な建築家となる。そのほか,新古典主義的な様式のワシントン D.C.の最高裁判所 (33) などを建てている。
ギルバート
Gilbert, Grove Karl
[生]1843.5.6. ニューヨーク,ロチェスター
[没]1918.5.1. ミシガン,ジャクソン
アメリカの地質学者。 1869年第2次オハイオ州地質調査隊に加わったのを手始めに,各種の探検調査に加わる。 79年アメリカ合衆国地質調査所が創設されると,すぐ所員に任命された。アメリカ地質学会会長 (1892) 。地殻の大変動の基本になっている造山運動と造陸運動を区別することを提唱。ナイアガラ瀑布の地質研究で著名。主著『ボンヌビル湖研究』 Bonneville Monograph (90) 。
ギルバート
Gilbert, Sir Humphrey
[生]1539頃.ダートマス
[没]1583.9.
イギリスの軍人,航海者。 W.ローリーの異父兄。アイルランド従軍後,下院議員。 1572年オランダの独立戦争に従軍。 78年エリザベス1世から特許状を得て念願の北西航路探検を開始して失敗。 83年再開してニューファンドランドに到着,それを女王の植民地としたが,帰航の途中アゾレス諸島沖で嵐にあい,乗船と運命をともにした。
ギルバート[センプリンガム]
Gilbert of Sempringham
[生]1083頃. センプリンガム
[没]1189.2.4. センプリンガム
イギリスの聖職者。聖人。ギルバート修道会の創始者。トマス・ベケットと国王ヘンリー2世の争いに際し,トマス・ベケットを支持した。祝日は 2月4日。
ギルバート
Gilbert, Sir John
[生]1817.7.21. ロンドン
[没]1897.10.5. ロンドン
イギリスのロマン主義の画家。水彩画家として,またシェークスピア,W.スコット,J.ミルトン,M.セルバンテスなどの本の挿絵画家として有名。明暗のコントラストの強い画面に描き出される情景は,ロマンチックで雄大なスケールをもっている。
ギルバート
gilbert
起磁力および磁位の CGS電磁単位またはガウス単位。記号は Gb。他の電磁単位および SI単位のアンペアとの関係は 1Gb=(1/4π)×10A 。単位名は W.ギルバートの名にちなむ。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報