防寒用の寝具として用いられる毛織物。本来太い紡毛糸を用いるが,現在では綿糸や化繊,混紡糸も使われる。英語ではブランケットblanketといい,14世紀にイギリス人トマス・ブランケットが初めて織り出したことに由来する,といわれるが確かではない。またフランス語のブランシェblanchet(白い毛織物)がイギリスでブランケットとなり,縮絨(しゆくじゆう),起毛を施した長い毛羽(けば)のある織物をいうようになった,との説もある。毛織物は古くから衣服に用いられてきたが,寝具に使われたかどうかは不明である。しかしイギリスのキルトの前身である外衣は,5~6mの布を昼間はベルトで留めて着用し,夜間には寝具として使ったように,その保温性から衣服と寝具を兼用していたとも思われる。中世以降の毛織物業の発達とともに,イギリスでは1300年にはblanketの記述がみられ,15世紀の商人の財産目録にはシーツやマットとともに挙げられており,貴重なものであったろう。19世紀には,片山淳之助(福沢諭吉)が《西洋衣食住》(1866)の中でベッドに触れ,〈敷蒲団ハ一番下ニ藁其次ニ棉其次ニ毛ノ蒲団ト順々ニ三枚モ敷キ上ニ晒ノ白布ヲ覆ヒ……上ニ掛ル夜具ハ甚タ薄シ。晒ノ布二枚ニ‘ブランケット’ノ二枚モ重ネタル位ナリ〉と紹介している。
日本へは幕末にもたらされ,当初は各藩の兵士が防寒のためまとっていたという。1868年(明治1)9月には政府から〈東北征討之諸軍〉兵士に,毛布が1枚ずつ支給されている。防寒具としてマントのように羽織る風は民間にも広がり,フランケンとかケットと呼んだ。鮮やかな原色のものが多く,赤い毛布をまとって東京見物に来る地方者は〈赤ゲット〉と呼ばれた。軍事用としての需要がふえたため,93年には官営の千住製絨所で国産毛布の生産を始めた。同じころ,民間の工場もつくられ,大阪の泉大津を中心に生産が活発になった。1908年には三越ではじめて西洋式寝具としての毛布を売り出したが,1枚4~15円という高価なものであった。大正初期から昭和初期にかけては女学校の家政科の教科書にシーツと毛布が取り上げられている。第2次世界大戦後は軍需品の放出と生活の洋式化で,急速に普及するようになった。
毛布の種類は多いが,製造機種別と製造法・仕上げ法による差異で区別される。前者には織毛布(細い経糸(たていと)と太い緯糸(よこいと)で平織,綾織,二重織などにし起毛を施したもの),タフト毛布(タフティング機で綿の基布にアクリルのパイル糸を細かい針で植えこみ,起毛したもの。量産ができ廉価で実用向き),マイヤー毛布(ドイツの機械で細番手の糸を使って編んだ毛足の長い毛布)の3種がある。後者には刈毛仕上げ毛布(毛羽立てた表面の毛足の長さを一定に刈り揃える)やナップ仕上げ毛布(合繊のタフト毛布を羊毛のような肌ざわりにする)ほか,仕上げ加工法によって分けられる。
執筆者:山浦 澄子
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紡毛織物の一種で寝具の一つ。ブランケットともケットともいう。平織、綾織(あやおり)、緯二重織(よこにじゅうおり)、二重織などの織物に、フェルト(縮絨(しゅくじゅう))加工し、両面から起毛して毛足の長い毛羽をたてたものである。厚地で保温性に富み、軽く柔らかな肌ざわりをもつ織物である。
大きさは普通のものは幅155センチメートル、長さ195センチメートル、大形のものは幅200センチメートル、長さ225センチメートル、重さは約1.8キログラムから4キログラムぐらいである。原料は上質のメリノ種、寒羊毛の粗剛なもの、ラクダの毛、綿、そしてレーヨン、アセテート、アクリル、ビニロンなどの化学繊維などが用いられる。経(たて)糸に綿糸、緯(よこ)糸に綿・毛の混紡糸を用いたものもある。経緯綿糸を使ったものは吸湿性、保温性に優れているので、皮膚の柔らかい乳児に適している。合成繊維の毛布は軽く、暖かいが、吸湿性、耐熱性に劣るから、乳幼児、老人が使用するときにはその性質を知り、注意して用いることが肝要である。羊毛、ラクダの毛を使ったものは防虫加工をし、保管には防虫剤を入れることが必要である。色、柄はもとラクダ色の地色に両端濃褐色の糸で横縞(よこじま)を織り込んだ線額毛布と、花柄ボーダーを織り込んだ花額毛布とがあった。近年は近代的感覚による総柄のもの、白無地、色無地のものが多くなっている。色はラクダ色、グレー、赤、ピンク、白などがある。ブランケット(毛布)は明治初年西洋文化とともに輸入された。寝具用として一般に日常生活に用いられるようになったのは、第二次世界大戦後である。
毛布は寝具用のほかに、肩掛け、膝(ひざ)掛け、こたつ掛けなどにも用いられる。ほかに鞍下(くらした)などにも用いられる。
[藤本やす]
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