財産的に価値を有する物。財産上の利益に対する概念。刑法上、財物は財産犯に共通する行為客体である(ただ、背任罪の客体に財物が含まれるかについては争いがある)。刑法上、「財物」の意義につき、有体性説と管理可能性説の大きな対立がある。前説によれば、財物は有体物に限られ、電気その他エネルギーのような無体物は含まれないと解されるが、後説によれば、たとえばメーターによる測定のように物理的に管理可能であれば、無体物でもよいと解されている(後説が通説・判例)。この点に関し、かつて、電気の盗用につき、電気が刑法第235条の窃盗罪にいう「財物」にあたるかが争われたが、同法第245条は「電気は財物とみなす」と定め、立法により解決した。ただ、電気以外のエネルギーが刑法上の財物に含まれるかについては、同条によって解決されないため、有体性説と管理可能性説の争いは、いまなお意義を有している。
なお、財産犯における「財物」は、使用価値・交換価値を問わず財産的価値を有するものでなければならないが、価値のきわめて軽微な物については、もはや刑法的な保護に値しないから財物から除外すべきであろう。
[名和鐵郎]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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