クワキウトル族(読み)クワキウトルぞく(その他表記)Kwakiutl

改訂新版 世界大百科事典 「クワキウトル族」の意味・わかりやすい解説

クワキウトル族 (クワキウトルぞく)
Kwakiutl

北アメリカの北西海岸地域の中部に居住するインディアン。北西海岸インディアンとも呼ばれる。カナダのバンクーバー島北部からブリティッシュ・コロンビア州の海岸地域に住む。言語はモサン語族に属する。F.ボアズによる民族学的調査とR.ベネディクト著《文化の諸類型》のなかでディオニュソス型文化と紹介され,広く知られている。

 温暖な気候,急峻なリアス海岸,豊富な森林資源と漁業資源を背景とし,漁労狩猟活動を基盤にきわめて安定した食糧供給と定着的集落をもつことに特徴がある。漁労は季節的に回遊するサケ・マスを中心に,ロウソクウオ,オヒョウ,タラなどを網,箭(や),釣針などで捕獲し,乾燥させたり,薫製にして保存した。各種のアザラシオットセイなどの海獣は回転離頭銛で捕らえ,シカ,野生の羊,ヤギなどの陸獣も弓矢,槍で狩猟した。

 大型長方形の平面をもつ家屋は,カナダスギの柱とくさびで厚く割った板を植物性の蔓で結びつけた板壁からなり,海岸の平たん部に海に面して建てられた。双系的拡大家族がこの家屋に住み,村落を構成している。

 序列化された社会的地位とそれに伴う特権が社会組織原理の中核をなす。社会の成員は首長貴族平民,奴隷に分けられているが,長子相続・継承が原則のため,同胞間にも差が生ずる結果になる。各拡大家族の成員の間,同一村落内の家族の間,各村落の間にもそれぞれ序列が生まれることになる。

 地位・称号の継承,名誉の回復などにはポトラッチを主催し,社会的承認を受ける必要があった。これは拡大家族成員の協力によって首長により主催される饗宴と贈答を伴う儀礼で,着席,贈答品の授受,供応の順序も社会的序列を反映する。ポトラッチの目的が達成されたか否かは,他のポトラッチに招待されたおりに自己の地位にふさわしい処遇を受けたかどうかでわかる。このほかに,競争ポトラッチと呼ばれる富の浪費気前のよさを誇る儀礼もあった。これらの制度は天然資源に恵まれ,富の過剰な蓄積の可能な地域において,富・財産の偏在を防ぐための社会的機能をもち,物資の再分配の役割を果たしていた。カナダ政府は1920年代にこれを禁止したが,50年代には復活されている。

 宗教は動物の慰撫,守護神,治療と浄化を目的とするシャマニズム,秘密結社の存在などに特徴づけられる。秘密結社自体とその成員にも序列があり,とくに最高位のハマツァ結社の長には社会的地位の高い首長が加入した。ポトラッチを伴う入社儀礼は,生と死をモティーフとする彼らの世界観を表現する演劇の形式をとる。

 芸術表現の素材には木材,ヤギの角,なめし皮,スレートなどが使用される。表現されるモティーフはワタリガラス,ビーバー,狼など自己の所属する拡大家族の紋章が多い。紋章の使用者は決まっており,その使用権は相続される。これらのモティーフは仮面,トーテム・ポール,住居内装飾柱,饗宴用木皿,貯蔵用木箱,櫂,カヌー,儀礼かぶりもの,かご細工,ブランケットなどに彫刻され,織り込まれた。動物は図案化・様式化され,頭,手,脚などの各部分は独立的に独特の線,円で表現され,全体として平衡をとった。とくにトーテム・ポールなどでは立体的・三次元的表現をとった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クワキウトル族」の意味・わかりやすい解説

クワキウトル族
クワキウトルぞく
Kwakiutl

北アメリカの太平洋岸,クイーンシャーロット湾地域に住むアメリカインディアンの一民族。海獣やサケなどの狩猟,漁労を生業とする。言語はワカシュ語族に属し,3つの方言に分れる。トーテム信仰をもつ。社会組織は双系出自に基づく地域集団を基本的単位とし,貴族,平民,奴隷の階層に分れるが,氏族のような単系親族集団を欠く。婚姻は地域外婚を原則とし,夫方居住婚妻方居住婚とも行われる。ポトラッチを行うので有名である。

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世界大百科事典(旧版)内のクワキウトル族の言及

【アメリカ・インディアン】より

…これらの豊富な食糧資源に基づいて,社会的序列を重視する階層社会が発達し,トーテム・ポール,銅板紋章,仮面,木彫品にみられる独特の芸術様式が発達していた。ヌートカ族,ハイダ族,クワキウトル族トリンギット族,ツィムシャン族などが代表的な部族である。
[カリフォルニア文化領域]
 カリフォルニア州北部から南部にかけての地形はコースト・レーンジズ(海岸山脈)とサン・ホアキン川およびサクラメント川の河谷に特徴づけられる。…

【婚姻】より

… 一方,〈妻〉が男であることもある。北アメリカ北西海岸のクワキウトル族では,首長の特権の多くが息子ではなく義理の息子,つまり娘の夫を通じて孫に伝えられる。娘がないときは,息子がやむをえず娘の代りになって,他の男子を婿として迎える。…

【奴隷】より

…所有の客体,〈物〉として扱われる人間で,社会的または法的にそのようなものとして正当化された身分の人間をいう。それは人間による人間の抑圧,したがってまた人間の隷属の最も粗野な形態であり,いっさいの差別の原型をなしている。なぜなら奴隷とは,人格を含めて身ぐるみ所有の対象,動産とされた人間であるからである。
【西洋古代】
 奴隷の人格否認が最も徹底したのは,奴隷制社会を生み出した古典古代においてであった。ギリシアのアテナイでは奴隷は〈生きた道具〉とされ,ローマでは〈話す道具〉とされた。…

※「クワキウトル族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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