翻訳|microburst
雷雲(積乱雲)に伴って吹き出す強い下降気流。1975年6月24日、雷雨をついて着陸しようとして100人を超す死者を出した、アメリカのジョン・エフ・ケネディ国際空港での航空機事故では、それまで知られていた積乱雲よりも規模は小さかったが、下降気流の吹き出しdowndraft outburstは非常に強かった。そこで、このことばを縮めてダウンバーストdownburstとよび、下降気流が水平に広がったときの直径の大きさが4キロメートル以下のものをマイクロバースト、これより大きいものをマクロバーストmacroburstとよんだ。
当時は、積乱雲の下降気流は地表面に達する前に水平に流れていくと考えられ、地表面まで強い下降気流があるとは考えられていなかった。下降気流が地表近くまで強まるときには、落下中の空気塊の温度が周囲よりも下がり続ける現象や、落下速度の大きい降水粒子(雹(ひょう)や大粒の雨)が周囲の空気を引っ張る現象(ドラッグdrag)がみられる。前者の原因には降水粒子の蒸発と雹など氷の融解がある。蒸発によるものは地表面に達するころには降水はほとんどなくなるのでドライマイクロバーストdry microburstとよばれる。また、雹などの氷が0℃より温度の高い層を落下すると、融解して空気の温度を下げ、また降水粒子の大きな落下速度によるドラッグ効果も加わって、地表面に達するまで下降気流は増加する。この場合には降水を伴っているので、これをウェットマイクロバーストwet microburstとよぶ。いままでの航空機事故はすべてウェットマイクロバーストによるものである。
慣性の大きい大型機が進入中に、地面近くで四方に吹き出した追い風に遭遇すると、対気速度は急減し(項目乱気流の「乱気流とウインドシア」の章参照)、さらに下降気流の中では迎え角も小さくなるので、揚力は急減して事故の原因になる。1985年9月4日アメリカのダラス国際空港でのデルタ航空機事故の調査の際に行った数値シミュレーションは優れている。これによると、強い下降気流による冷気の吹き出しは、地面近くでは摩擦があるため上空で先行し、着地してから3分後には周囲の空気との境界(ガスと前線)では非常に大きな風の急変が発生、さらに上側が重い空気であるため乱気流も強かったことが示されている。マイクロバーストによる強い吹き出しの例としては、アメリカのアンドリュース空軍基地での130ノット(67メートル/秒)の瞬間最大風速があり、100ノット以上の継続時間は30秒程度であった。また、アメリカの調査では、これまでの事故ではマイクロバーストは着地してから5分以内に発生している。このため、マイクロバーストのドップラーレーダーによる情報は自動化され、発現と同時に管制塔を通じて着陸機に通報されている。
[中山 章]
『藤田哲也ほか著『ダウンバースト(下降噴流) マイクロバースト(小型噴流)とマクロバースト(大型噴流) NIMRODおよびJAWS研究計画の報告』(1985・日本航空機操縦士協会)』▽『小倉義光著『お天気の科学――気象災害から身を守るために』(1994・森北出版)』▽『中山章著『最新 航空気象――悪天のナウキャストのために』(1996・東京堂出版)』▽『加藤寛一郎著『墜落6 風と雨の罠』(2001・講談社)』▽『大野久雄著『雷雨とメソ気象』(2001・東京堂出版)』▽『デイヴィッド・オーウェン著、青木謙知監訳『墜落事故――機体が語る墜落のシナリオ』(2003・原書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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