精選版 日本国語大辞典 「航空気象」の意味・読み・例文・類語
こうくう‐きしょうカウクウキシャウ【航空気象】
- 〘 名詞 〙 航空機の安全な飛行および経済的な運航に関係のある気象状態。飛行場付近の霧、航路の気流、風向、風速、雲量、雲高、気圧、気温、視程など。
航空機の運航の安全,快適,効率にかかわる気象。航空機に働く揚力は翼の空気に対する相対速度の2乗と空気の密度に比例する。気温が高い(空気密度が小さい)場合,航空機に向かう風が弱い場合,ともに揚力は減少し滑走距離は長くなる。飛行場周辺の低層の風の鉛直シアー(上層と下層の風の差)が大きいと滑走距離が通常より延びる。また,飛行場の視程が悪かったり,雲が低かったり,強風が滑走路を横切って吹くような場合は,航空機の離着陸は危険になる。安全に離着陸するためには,風,雨,雲,霧,気温などの通報や予報は欠かせない。さらに飛行中には,危険を避けるため乱気流,着氷,雷,トルネードなどに関する情報が必要であり,追風を利用し経済的に飛行するため上層の風に関する情報も必要である。このような要求に応じるため,各国の気象機関では,地上,上層の気象観測を行い,各種天気図を解析し予報を作り各航空会社へ通報するほか,航空用の各種気象データを放送している。
航空機の運航,とくに離着陸の安全と能率に影響する気象要素の観測をいうが,高層気象観測は航空気象のためだけでなく,一般の気象観測と並行して行われており,一般に航空気象観測とは,飛行場における観測をいう。航空気象観測が一般の気象観測と区別されるのは,飛行場の観測値がある値に達すれば直ちに臨時観測を行い,即時通報することと,特有の気象要素を観測するためである。
航空気象観測には定時観測と特別観測がある。定時観測は一定の時間に観測するが,特別観測は気象要素が定められた基準値より良くなったり悪くなったときに行うもので,悪天候で天気変化のはげしいときや,その飛行場で航空機事故のあったときなどは1日に百数十回の観測をする。すべての観測が飛行場の管制塔から離着陸機に対し平文で通報されるが,このうち特別観測のとくに指定されたものと定時観測は国際航空気象通報式(METAR通報式)によって送信される。観測される気象要素には雲,視程,風,天気,気温などのほか,航空気象に特有の卓越視程,滑走路視距離(RVR),高度計規正値などがある。
航空気象観測がきめ細かく行われるのは,航空機を安全に離着陸させるための最低気象条件が各飛行場で決められており,気象状態が最低気象条件より良い場合でも,飛行方式を気象状態によって制限するためである。
飛行方式には有視界方式visual flight rule(VFR)と計器飛行方式instrument flight rule(IFR)がある。いま飛行場の地上視程が5km以上,雲高が300m(一部の飛行場は450m)以上あれば,その気象状態を有視界気象状態VFR meteorological condition(VMC)と呼び,航空機はVFRに従って飛行できる。飛行中では航空機からの鉛直距離で上方150m,下方300m,水平距離600mの範囲内に雲がなく,飛行視程が5km以上(管制圏外の空域では1500m以上)の条件時にはVFRの飛行ができる。飛行気象状態がVMCの限界以下になれば,これを計器気象状態IFR meteorological condition(IMC)といい,航空機はIFRをとらなければならない。IFRで離着陸できる気象条件の最下限が最低気象条件である。
飛行場の各種予報や観測値は,それぞれ決まった気象通報式により気象専用線で関係機関の間で交換される。気象庁では世界中から集まる膨大な資料の収集,交換は自動編集中継装置(ADESS)で処理する。航空気象予報には飛行場予報,航空路予報,空域予報がある。航空機の運航に重大な悪影響を与える気象現象をシグニフィカント・ウェザーsignificant weatherと呼び,ICAO(イカオ)では,雷電,台風,強いスコールライン,ひょう,並~強い乱気流,並~強い着氷,顕著な山岳波,広範囲の砂塵あらし,着氷性の雨と定義している。航空予報に含まれる気象要素は,時間的・空間的に非常に短い時間にはげしく変化するため,現象の起こる範囲や起時は近似値で,ある幅をもった空域や時間の最も確からしい平均を表す。航空気象予報は目的によって,飛行前の計画に用いる長時間予報と,飛行中や離着陸に用いる短時間予報がある。
(1)飛行場予報aerodrome forecast 航空機の離着陸に必要な飛行場内の予報である。国際間で交換される国際航空のための飛行場予報は,予報の有効時間は長く9~24時間で,1日に4回予報されるが,国内用は有効時間は短く9時間で,1日に8回予報される。気象要素は飛行場の風,視程,天気,雲と,必要の場合は飛行場上空の着氷や乱気流の発現予想高度と層厚などである。また飛行中の航空機に対してはボルメット放送と呼ばれる対航空機無線電話により平文で放送される。
(2)航空路予報route forecast 飛行に必要な二つの飛行場間の航空路に沿った気象状況の予報で,図式で機長に提供するものと,一定の気象通報式ROFORで隣接の国際気象機関と交換するものの2種の形式がある。含まれる気象要素は航空路に沿った予報時間内の風,視程,天気,雲や,必要によって乱気流の強さと層厚,ジェット気流の強さと高度,圏界面の気温と高さおよび鉛直方向の風のシアーなどである。
(3)空域予報area forecast 決められた責任空域全般について行う予報で,ふつうは予想天気図の型で発表される。運航管理者は飛行計画に利用し,機長は飛行中の天気変化の判断に役立てる。
1970年代前半に登場した超音速輸送機(SST)は巡航高度1万6000~1万8000m,巡航速度マッハ2であり,この飛行に影響を与える気象要素には,風,気温,雲,降水,乱気流などがあるが,このほかSSTから発生して地上に影響を与えるソニックブームや,SSTが受ける高空での強い太陽放射やオゾンの問題がある。成層圏ではジェット気流のような強い風は吹かないので,風については問題はないが,気温は重要である。SSTの燃料消費は通常のジェット輸送機の数倍も大きいので,悪天による航路変更は経済的損失が大きい。また加速上昇時の気温予報,着陸時の視程や風の鉛直分布の予報はいっそう高い精度が要求される。SSTに影響する乱気流については,成層圏まで達する孤立した雷雲に遭遇した場合の危険性が心配されている。
近年,運航関係者は一般的には航空路上より離着陸時の飛行場実況に関する気象情報を必要視し,またその情報が非常に高い頻度で即時性をもって通報されることを要求している。したがってこれからは低層風の鉛直シアー,斜め視程,RVRの短周期変動値などの要素の観測と通報のための新しい測器の開発と通報の自動化が推進されるだろう。また航空予報では着陸を決定するための30分~1時間予報が必要となるだろう。しかし国際線の場合の航空路予報には,これまでの長時間予報が必要なことはいうまでもない。航空機の高速大型化と情報処理システムの発達に伴い,気象情報のサービスは今後いっそう自動化され合理化されてゆくことだろう。
執筆者:鈴木 義男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
航空機の運航に必要な気象現象を扱う学問、または気象業務。航空気象の目的は、安全に、経済的に、スケジュールどおり運航するように気象情報を利用することで、例を長距離飛行にとると運航とのかかわりは次のとおりである。
(1)飛行前計画 飛行実施に先だち、飛行領域内の風、気温、悪天significant weather(飛行障害となる気象現象で、活発な雷雨、強い乱気流、強い着氷など)の数値予報を用い最良のコースを決め、また、各地の飛行場予報を用いてスケジュールどおりの出発や着陸が可能かどうかを知り飛行計画をたてる。
(2)離陸 計画ができると、積み荷作業を始めるが、離陸重量は風、気温、滑走路状態に左右されるので、離陸時の予報値(離陸予報)から積み荷量を決め、観測値でチェックして離陸する。離陸直後は十分な揚力がないので、揚力を急減させる強い下降気流、向かい風成分の急減(追い風成分の急増)、気温急昇(逆転層)は、視程、横風、悪天とともに重要な要素である。
(3)巡航 ジェット機は高空を飛ぶため、悪天の影響は少なくなったが、晴天乱気流(CAT(キャット))、高高度の山岳波は依然としてやっかいである。理由は、これらは発現する範囲が狭く、寿命も短いので、直接予報できないし探知する機器がないからである。また、低高度を飛ぶ航空機は種々の悪天に遭遇するが、雷雲によるものは機上レーダーで回避できる。
(4)着陸準備 低空では高空に比べ燃料消費が大きいため、着陸できる見込みがなければ、そのまま代替飛行場に直行したほうが安全かつ経済的なので、機長は目的飛行場へ1時間ぐらいの飛行距離になったとき、どの飛行場に着陸するかを決める。この判断材料として世界の主要国際空港(日本では成田)では、着陸できるかどうかの短時間先の飛行場予報を観測値とともに航空機に向け放送している。これをボルメット放送という。
(5)進入 着陸のための進入中は、同じ強さの雷雲でも巡航中よりも大きな影響を受ける。とくに、ウインドシアとよばれる、雷雲に伴う風や鉛直流の急変は重要で、レーダーエコーだけの情報では不十分なので、主要空港には風も観測できるドップラーレーダーが設置されている。また、航空機への落雷防止には雷監視システムLightning Detection Network(LIDEN(ライデン))があるが、航空機への落雷を知ることはできない。さらに着陸の最終段階では、計器飛行を行っている航空機でも目視に切り換える高度(決心高度)まで降下したとき、滑走路が視認できなければ着陸できない。この場合、パイロットは斜めに見ているので斜め視程が必要だが、この観測は実用化されていないため、地上での観測値を用いている。着陸するためには、視程と最低雲高が、ある値以上なければならず、この値を最低気象条件という。どれだけ見えるかは、滑走路の接地帯近くに設置した前方散乱計で大気中の(微)粒子による散乱を測定し、これから、滑走路視距離に換算したものを用いている。
(6)着陸 着陸するには、滑走路の端末50フィート(約15.2メートル)の高さを失速速度の1.3倍(基準速度)で通過するように電波にのって降下しながら減速するが、強い下降気流、向かい風の急減(追い風の急増)があるところでは、大型機は揚力の急減をおこすため、低層での風の急変はとくに重要で、マイクロバーストmicroburstをはじめ、局地的な前線、地形の影響、おろし風などによる変動もある。このほか、強い横風のときや、湿った滑走路で摩擦係数の小さいときには着陸に制限が加わる。また、当然のことだが、飛行場施設や駐留機のための予警報も航空気象業務のなかに含まれる。
(7)今後の課題 数値予報が進歩したことにより、地球規模の大きさから国内飛行まで、飛行計画用の気象情報は大幅に改善され、経済運航に大きく寄与している。一方、航空機や地上援助施設の性能が向上したことにより天候による欠航はきわめて少なくなった。このことは見方を変えれば、航空機は危険な現象と隣り合わせで飛行していることになる。しかしこれらの現象は小規模で寿命も短いため、これがあるからといって運航を中止することはできない。これらの現象は直接予報できないから探知機器が必要である。雷雲については機上レーダーがあるが、目で見ることのできない晴天乱気流やウインドシアは探知機器が開発されていない。一方、小型機も年々増加しているが、これらは目視飛行が多く、気象条件に大きく左右されるので、いままで述べたことに加え、さらに多項目にわたる気象情報が必要となる。
[中山 章]
『岡田武松著『航空気象学』(1942・岩波書店)』▽『杉浦弘編著『航空気象』(1954・鳳文書林)』▽『上松清・山田直勝・宇津木政雄編『応用気象学大系4 航空気象学』(1960・地人書館)』▽『伊藤博著『航空気象』(1971・東京堂出版)』▽『伊藤博著『航空気象入門』(1973・東京堂出版)』▽『伊藤博編『航空気象用語辞典』(1974・東京堂出版)』▽『加藤喜美夫編著『航空気象情報の読み方――実況・予報通報式』(1995・成山堂書店)』▽『中山章著『最新 航空気象――悪天のナウキャストのために』(1996・東京堂出版)』▽『FAA(アメリカ合衆国運輸省)著、日本航空協会航空スポーツ室訳・監修『航空気象入門 航空気象編』(2000・全国スカイレジャー振興協議会)』▽『加藤喜美夫著『航空と気象ABC』3訂版(2003・成山堂書店)』▽『橋本梅治・鈴木義男著『新しい航空気象』改訂12版(2003・クライム気象図書出版部)』
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