シモン(読み)しもん(その他表記)Claude Simon

デジタル大辞泉 「シモン」の意味・読み・例文・類語

シモン(Claude Simon)

[1913~2005]フランスの小説家。ヌーボーロマンを代表する一人。1985年ノーベル文学賞受賞。作「」「」「フランドルへの道」など。

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精選版 日本国語大辞典 「シモン」の意味・読み・例文・類語

シモン

  1. ( Simon )
  2. [ 一 ] イエス‐キリストの十二使徒の一人、ペテロのこと。ヘブライ名をシモン、ギリシア名をペテロという。
  3. [ 二 ] イエス‐キリストの十二使徒の一人。新約聖書「ルカ伝」に現われる「熱心党のシモン」のこと。ペルシアで殉教したとされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シモン」の意味・わかりやすい解説

シモン(Claude Simon)
しもん
Claude Simon
(1913―2005)

フランスの小説家。マダガスカル島に生まれ、南仏ペルピニャンで幼時を過ごしたあと、パリ、オックスフォード、ケンブリッジ各大学に学び、ついでアンドレ・ロートに絵画を学んだ。18歳から10年間、兵役期間を除いてヨーロッパ全土を旅し、スペイン戦争も実見した。第二次世界大戦には騎兵として召集され、捕虜となったが脱走。カミュを連想させる『ペテン師』(1945)などの小説を発表したあと、フォークナーの影響で作風を転換し、『風』(1957)、『草』(1958)、『フランドルへの道』(1960)、『ル・パラス』(1962)で、ヌーボー・ロマン(新小説)を代表する一人となった。

 ことに『フランドルへの道』では、戦後のある夜、話者の意識にふとよみがえった1940年5月の「大敗走」の記憶が、物語的秩序を無視して、感覚と映像の混沌(こんとん)とした渦巻の形に群がり湧(わ)き起こるなかから、自殺めいた戦死を遂げた中隊長レシャック大尉やなまめかしいその妻のおもかげ、不吉な過去を秘めたレシャック家の歴史、部下である話者の俘虜(ふりょ)体験などを鮮明に浮かび上がらせ、不可解で不条理な生と死の相克という内的現実をみごとに定着させている。『歴史』(1967)、『ファルサロスの戦い』(1969)、『導体』(1971)で、連想による多声楽的混沌の生成という方法は、さらに言語ゲーム的色彩を濃くし、傑作『三枚つづきの絵』(1973)で極点に到達する。この作品のなかでは、主要な舞台となる三つの土地でのできごとが、それぞれほかの土地での映画やジグソー・パズルや絵葉書などの映像のなかに吸い込まれるという、ウロボロス的構成を実験している。『農事詩』(1983)は集大成的大作とみなされたが、その後も『アカシア』(1989)、『植物園』(1997)などの力作を発表し、同種の個人的経験に繰り返し取材をしながら、つねに新たなパノラマ的展望を切り開いてみせた。1985年ノーベル文学賞受賞。

[平岡篤頼]

『平岡篤頼訳『フランドルへの道』(1966・白水社)』『平岡篤頼訳『世界の文学23 風/ル・パラス』(1977・集英社)』『平岡篤頼訳『三枚つづきの絵』(1980・白水社)』『平岡篤頼訳『アカシア』(1995・白水社)』『岩崎力訳『歴史』(1968・白水社)』『菅野昭正訳『ファルサロスの戦い』(2001・白水社)』


シモン(Pierre Henri Simon)
しもん
Pierre Henri Simon
(1903―1972)

フランスの批評家、小説家。西フランス海岸の小村に生まれる。高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)卒業後、リール大学ほかで教員生活を続けながら、社会参加(アンガージュマン)の意識の強い文学活動を展開。評論に『告発された人間』(1949)、『現代文学における人間の条件』(1951)、『現代フランス文学史』(1956)、小説に『青い葡萄(ぶどう)』(1950)、『ある将校の肖像』(1958)、『ある幸福の物語』(1965)などがある。また、長年『ル・モンド』紙の文芸時評を担当した。キリスト教的人格主義の立場にたち、人間の使命の普遍的表現を文学に求め続けた。1966年アカデミー会員。

[小林 茂]


シモン(魔術師)
しもん

サマリアの魔術師で、通称「魔術師シモン」Simon Magus。魔術を行ってサマリアの人々を驚かせ、「彼は神の力だ。大能とよばれる神の力だ」といわれていた。使徒ピリポの手で受洗する。しかし、聖霊を授ける力を金で買おうとして、使徒ペテロとヨハネにたしなめられた(「使徒行伝(ぎょうでん)」8章9~24)。外典『ペテロ行伝』では、ユダヤを追われたシモンがサタンの遣わした魔術師としてローマに赴き、その地でペテロと奇跡による戦いを展開する。最初の異端者、グノーシス派の祖とされ、4世紀まで彼の信者がいた。

[市川 裕]

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改訂新版 世界大百科事典 「シモン」の意味・わかりやすい解説

シモン
Claude Simon
生没年:1913-2005

フランスの小説家。はじめ画家志望で絵画の勉強をしたが,この計画は実現せず,1939年ころからフォークナーの影響を受けた作風によって,《ぺてん師》と題する小説を書きはじめ,第2次世界大戦に動員される期間を挟んでこれを完成,45年に最初の小説として刊行した。これはとくに筋立てが抽出できるという点で,まだ伝統的な小説の枠組みを保存しているが,《風》(1957),《草》(1958)を経て,伝統的な約束ごとに拘束されない小説形式の探究を進め,《フランドルへの道La route des Frandres》(1960)でひとつの頂点に達した。そこでは幼年時,スペイン内乱への参加,第2次大戦への従軍等々,過去のさまざまな記憶と現在とを交錯させながら,エロスへの執着,死の観念に動かされる人間の内面の様態が提示される。その時期から,いわゆるヌーボー・ロマンを代表する小説家とみなされるようになり,やがてメディシス賞を受けた《歴史》(1967),《ファルサロスの戦》(1969)あたりから言語の自発性を重視する書き方を開発し,その後も《農事詩》(1981)などで大胆な小説形式の革新を実践した。85年ノーベル文学賞を受賞。
執筆者:


シモン
Simon

新約聖書中の人名。旧約聖書シメオンに相当し,シモンはそのギリシア音写による。複数の同名人物が知られているが,おもなものは,(1)イスカリオテのユダの父,(2)イエスの兄弟,(3)十二使徒の一人で,熱心党のシモンと呼ばれる人,(4)クレネ人(びと)で,ゴルゴタに向かうイエスの十字架を無理に負わされた人,(5)魔術師シモン(シモン・マグス)などである。なお,イエスに出会う前のペテロもシモンと呼ばれ,シモン・ペテロと二重の名が付されることもある。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シモン」の意味・わかりやすい解説

シモン
Simon, Richard

[生]1638.5.13. ノルマンディー,ジェブ
[没]1712.4.11. ノルマンディー,ジェブ
フランスの聖書学者。ヘブライ語,シリア語,アラビア語をはじめ,教父学,東方典礼,ユダヤ教,教会法に通じた碩学。 1662年オラトリオ会に入り,70年司祭。 78年画期的な研究『旧約聖書批判史』 Histoire critique du Vieux Testamentを出版して物議をかもした。そのため同年オラトリオ会より追放され,ボルビルの小修道院主任司祭となって,厳格な生活をおくりつつ,各方面からの攻撃に対抗して精力的に研究を続行した。スピノザの合理主義的聖書解釈や聖伝を認めないプロテスタントの態度を否定し,ウルガタ訳聖書のみに依存したカトリックの研究に対しても原典に帰っての史的研究の重要性を主張。そのためプロテスタントはもとより,J.ボシュエやポール・ロワイヤルなどカトリック側からも攻撃され,10編の著作が禁書目録に載せられたほどであったが,近代の聖書研究の道を開いた功績は大きい。主著として"Histoire de l'origines et du progrés des revenues ecclésiastiques" (1684) のほか,"Histoire critique des versions du Nouveau Testament" (90) ,"Histoire critique des principaux commentateurs du Nouveau Testament" (93) などがある。

シモン
Simon, Claude

[生]1913.10.10. マダガスカル島タナナリブ
[没]2005.7.6. パリ
フランスの小説家。パリのコレージュ・スタニスラスに学ぶ。アルベール・カミュの『異邦人』と比較される処女作『ぺてん師』 Le Tricheur (1945) や『風』 Le Vent (1957) ,『草』L'Herbe (1958) ,『フランドルへの道』 La Route des Flandres (1960) を著してヌーボー・ロマンの旗手の一人となった。微細で執拗な心理分析を通じて人物の内部に分け入り,追憶と夢想によって絶えず現実との境界がかき乱される世界を描き出すのが特徴。ほかに『ル・パラス』 Le Palace (1962) ,『歴史』 Histoire (1967) ,『ファルサルの戦い』 La Bataille de Pharsale (1969) ,『盲目のオリオン』 Orion aveugle (1970) ,『三枚つづきの絵』 Tryptique (1973) ,『農耕詩』 Les Géorgiques (1981) など。 1985年,ノーベル文学賞受賞。 1989年来日。

シモン
Simon, Pierre-Henri

[生]1903.1.16. サンフォールシュルジロンド
[没]1972.9.20. パリ
フランスの評論家,小説家。『ル・モンド』紙の文芸時評を担当。評論に『告発された人間』L'Homme en procès (1946) ,『現代フランス文学史』 Histoire de la littérature française au XXe siècle (56) など,小説に『青い葡萄』 Les Raisins verts (50) ,『人は死を欲しない』 Les Homme ne veulent pas mourin (53) ,『ある幸福の物語』 Histoire d'un bonheur (65) などがある。アカデミー・フランセーズ会員 (66) 。

シモン
Simōn, Makkabaios

前2世紀頃のユダヤのハスモン (マカベア) 朝の創始者の一人。ヨハンネス・ヒュルカノス1世の父。またセレウコス朝のユダヤ教弾圧に対して武装蜂起したユダス・マカバイオスの弟。もう一人の兄ヨナタンが殺された (前 143) のち,その志を継いでユダヤの政治的独立のために戦った。前 142年にはセレウコス朝の守備隊を追出し,ユダヤ教大祭司になった。その後 80年間,ユダヤ人の国家は完全独立を果した。

シモン
Simon, Magus

新約聖書,『使徒行伝』中の著名な魔術師。福音伝道直前のサマリアで魔術により民衆を魅惑し,みずから大いなる者と称したが,ピリポがエルサレムから来て宣教したので勢力を失い,みずからも受洗。ヨハネとペテロから授洗の仕方と聖霊伝達能力とを買収しようとしたが拒絶された (使徒行伝8・9~24) 。このことから,聖職売買を意味する simonyの起源とされる。ローマ,クラウディウス帝のもとで信奉者を得たという。2~3世紀には信奉者は異端的シモン派を形成したことが知られ,4世紀まで続いた。

シモン
Simon, Stock(Stocchius)

[生]1165. ケント伯領
[没]1265.5.16. ボルドー
聖職者。イギリス生れのため,Simon Anglusとも呼ばれる。長年隠者として木の幹 Stockの穴に住み修行したといわれる。 1236年頃カルメル会に加入。のち総会長になり (1247) ,東方に由来するカルメル会会則を西欧風に改変,同年,教皇の認可を獲得し,この修道会抑圧の動きに対抗。大学都市に修道院を建設することにより,同会を発展させた。祝日5月 16日。

シモン
Simon, Lucien

[生]1861.7.18. パリ
[没]1945.10. シャトーティエリー
フランスの画家。アカデミー・ジュリアンに学ぶ。田園風景画にすぐれ,特にブルターニュ風景を好んで描いた。印象派風の明るい色彩を用いるが,伝統的写実主義の画家。サロンの常時出品者で,1890年のサロン・ド・ラ・ソシエテ・デ・ボザールの創立会員の一人。肖像画家としてもすぐれた。

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百科事典マイペディア 「シモン」の意味・わかりやすい解説

シモン

フランスの小説家。マダガスカル生れで,はじめは画家志望であった。独自の小説の構造を考案し,いわゆるヌーボー・ロマンの代表的な小説家といわれる。《フランドルへの道》(1960年)や《歴史》(1967年),《農耕詩》(1981年),《アカシア》(1989年)などの作品で,時間と生きられた時間との乖離や,感覚や記憶の瓦解を,言語空間の中での探求によって浮かび上がらせ,それを際限のない文章で紡ぎだした。1985年,ノーベル文学賞受賞。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「シモン」の解説

シモン

正式社名「株式会社シモン」。英文社名「SIMON CORPORATION」。製造業。昭和23年(1948)設立。本社は東京都中央区日本橋茅場町。産業用安全対策用品メーカー。安全靴の大手。ほかに作業用革手袋など。

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367日誕生日大事典 「シモン」の解説

シモン

生年月日:1814年12月31日
フランスの政治家,哲学者
1896年没

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世界大百科事典(旧版)内のシモンの言及

【十字架の道行】より

…キリストが十字架につけられるため,ゴルゴタの丘までひかれていく場面。共観福音書では,イエスを手助けするためシモンSimonという名のクレネ人にイエスの十字架を負わせた,と述べられているが,《ヨハネによる福音書》19章17節では,〈イエスはみずから十字架を背負って,髑髏(されこうべ)(ヘブル語でゴルゴタ)という場所に出て行かれた〉とある。 ビザンティンおよび初期キリスト教美術では,共観福音書の解釈に従って表現された。…

【十字架の道行】より

…キリストが十字架につけられるため,ゴルゴタの丘までひかれていく場面。共観福音書では,イエスを手助けするためシモンSimonという名のクレネ人にイエスの十字架を負わせた,と述べられているが,《ヨハネによる福音書》19章17節では,〈イエスはみずから十字架を背負って,髑髏(されこうべ)(ヘブル語でゴルゴタ)という場所に出て行かれた〉とある。 ビザンティンおよび初期キリスト教美術では,共観福音書の解釈に従って表現された。…

※「シモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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