拡散反射面の色(以下で、単に色とよぶ)を色相H、明度V、彩度Cによって表示するためのシステム。ここで、色相H、明度V、彩度Cは色知覚の三属性である。色相は赤、緑、青のような色味を特徴づける色の属性、明度は色の相対的な明暗に関する属性、彩度は色味の鮮やかさに関する属性である。
アメリカの画家マンセルAlbert H. Munsell(1858―1918)は1905年に三属性をH V/Cの形式で組み合わせるマンセル記号によって色を表示するシステムを創案し、15年に、これを具体化するための色票集Atlas of the Munsell color systemを発行した。
マンセル色票集Munsell Book of Colorはこの色票集を体系的に充実させたものであり、マンセル記号の付された多くの色票をH、V、Cに基づき系統的に配置する方式で編集されている。マンセル没後の1927年に初版が発行された。初版の色相環は20色相で構成されており、これらの色相は視覚的に色相間隔が均等であるように選ばれている。また、同色相チャートは色相環の20色相に対応する20枚編成になっている。42年に40色相に基づくものが出版された。
アメリカ光学会はマンセル色票を色彩科学的見地から検討する目的で、「マンセル・カラー(マンセル色票集の色票の色)の視覚的均等性に関する小委員会」を設置した。この小委員会の活動によりマンセル色票の視覚的均等性が改善され、それに対応してマンセル・カラーのCIE表示による測色データも修正された。この修正された測色データ(以下で、修正データとよぶ)に基づく表色系は当時、修正マンセル表色系とよばれた。しかし、現在、修正マンセル表色系は単にマンセル表色系とよばれている。とくにことわりのない限り、現在のマンセル表色系の用語は修正マンセル表色系をさす。
前記の修正データは、アメリカ光学会の前記小委員会によって1943年にアメリカ光学会誌上で報告された。このデータに基づき、マンセル表色系をCIE表色系と厳密に対応させることができる。色を三属性によって表示する方法は日本工業規格「JIS Z 8721:1993 色の表示方法――三属性による表示」に定められており、この規格の付表1~2に修正データが「三属性による表色系の基準」として記載されている。これらの付表を用いると、試料のマンセル表示(三属性表示)をCIE表示(心理物理色表示)に書き直したり、逆に、CIE表示からマンセル表示に書き直したりすることができる。同規格「JIS Z 8721:1993」に付属する「参考1 標準の光C照明下における色の表示方法の定め方」にCIE表示からマンセル表示に書き直す方法の例が記載されている。
[佐藤雅子]
マンセル表色系では色相Hをマンセル・ヒュー、明度Vをマンセル・バリュー、彩度Cをマンセル・クロマで表す。
マンセル・ヒューは赤(R:Red)、黄赤(YR:Yellow-Red)、黄(Y:Yellow)、黄緑(GY:Green-Yellow)、緑(G:Green)、青緑(BG:Blue-Green)、青(B:Blue)、青紫(PB:Purple-Blue)、紫(P:Purple)、赤紫(RP:Red-Purple)を基本10色相とする。これらの色相を連続的かつ等間隔に円周上に配置すると10分割の色相環が得られる。さらに各色相を、たとえば1R、2R、…、5R、…、10Rのように10分割すると、色相環が100分割される。ここで5Rは基本色相Rの代表色を表す。40分割の色相環では、たとえば2.5R、5R、7.5R、10Rのように一つの基本色相が四つに分割される( 参照)。
マンセル・バリューは理想的な黒を0、理想的な白を10とし、その間を明度の差が等しく知覚されるように分割したグレースケールに基づいて表す。マンセル・バリューVは、補助イルミナントC(以前は標準の光Cとよばれていた。日本工業規格「JIS Z 8720:2000 測色用標準イルミナント(標準の光)及び標準光源」参照)を照明光とする三刺激値Yc(視感反射率)との間に厳密に定義された対応関係がある。この対応は前記の修正データを基礎としており、たとえば、視感反射率がYc=19.27%である試料のマンセル・バリューはV=5.00である。
マンセル・クロマは色相をもたない(したがって鮮やかさがまったくない)無彩色を0(最小値)とし、彩度の差が等しく知覚されるように目盛られたクロマスケールに基づいて表す。試料色のマンセル・クロマは、その色と同じ明度の無彩色からの彩度の隔たりを表す( 参照)。色相をもたない無彩色に対して、色相をもち鮮やかさのある色を有彩色とよぶ。
配列して得られる面を等色相面という。 の配列には「Vの差が1である二つの無彩色の間で知覚される色の差が、Cの差が2でありかつ色相と明度の等しい二つの有彩色の間で知覚される色の差にほぼ等しい」という実験データが反映されている。また、等色相面にグレースケールが含まれるのは、無彩色のマンセル・クロマがC=0のためである。
に示すように、色相の等しい色票をマンセル・バリューVとマンセル・クロマCに関して系統的に二次元に垂直に立てたグレースケールを中心軸として、この軸のまわりに等色相面を色相の順に等間隔に配置し、等色相面上の色票のかわりにこれらの色票と同じ色をもつブロックを色票配列の順に積み上げると、
に示す立体模型のようなきわめて不規則な形の立体をつくることができる。この立体をマンセル色立体とよぶ。[佐藤雅子]
有彩色の試料では、まずマンセル・ヒューを数字記号と文字記号との組み合わせで表示し(
参照)、次にマンセル・バリューとマンセル・クロマをスラッシュで隔てて表示する。ただし、色相記号のあとにかならずスペースを入れる。たとえば5R 4/16はH=5R、V=4、C=16の鮮やかな赤を表す。一方、無彩色の試料では、マンセル・バリューを表す数値の前に無彩色を表す文字記号Nをつけて表示する。たとえばN5はマンセル・バリュー5の無彩色を表す。試料色のマンセル表示の定め方には、試料色のCIE表色値に基づく方法と、試料色とJIS標準色票との直接比較に基づく方法の2通りある。ここで、JIS標準色票は、前記の日本工業規格「JIS Z 8721:1993 色の表示方法――三属性による表示」に準拠する色票を三属性に基づいて系統的に配置する方法で編集した色票集である。
CIE表色値に基づく場合は、前記規格「JIS Z 8721:1993」の付表1~2に記載されている修正データを用いて補間または補外の方法によって定める。一方、直接比較に基づく場合は、補助イルミナントCの下で、試料の色をJIS標準色票の色と見くらべて定める。色の見えの一致する色票が見いだせない場合は、補間または補外の方法によって定める。JIS標準色票を用いてマンセル表示を定める方法の詳細はこの色票集に付属する解説に記載されている。
[佐藤雅子]
『『JIS Z 8721:1993 色の表示方法――三属性による表示』(1993・日本規格協会)』▽『『JIS Z 8720:2000 測色用標準イルミナント(標準の光)及び標準光源』(2000・日本規格協会)』▽『S. M. Newhall, D. Nickerson, D. B. JuddJournal of the Optical Society of America, vol.33, Final report of the O. S. A. subcommittee on the spacing of the Munsell colors(1943, Optical Society of America)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…だから色を正確に表現するには色相とあざやかさと明るさを用いればよいということになる。この原理を使った表色法がマンセル表色系と呼ばれるものである。
[マンセル表色系]
色の三属性を利用して世の中の色を表現することができる。…
※「マンセル表色系」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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