日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミハイロフスキー」の意味・わかりやすい解説
ミハイロフスキー
みはいろふすきー
Николай Константинович Михайловский/Nikolay Konstantinovich Mihaylovskiy
(1842―1904)
ロシアのナロードニキの理論家。没落貴族の家庭に生まれ、鉱山学校に学ぶ。1860年代末から『祖国雑記』誌の中心的論客として青年層に多大な影響を与えた。『進歩とは何か?』(1869)でスペンサーの社会有機体説を批判し、社会的分業が現実の人間にとっては退歩であると主張し、反資本主義、共同体社会主義というナロードニキの中心思想を基礎づけた。これはのちにレーニンによって主観的社会学として批判されるが、歴史発展の類型と段階という区分は、いまなお学問的独創性を失ってはいない。主著の標題『個性のための闘い』(1875~1876)が示すとおり、彼は社会主義における個性の問題を終生追究した。その点でゲルツェンの継承者と目される。ナロードニキの心情を「悔悟する貴族」と形容し、生涯亡命せずその立場を貫いた。主要論文には、ドストエフスキー文学を病理学的に分析した『残酷な才能』(1882)や、「批判的に思考する個人」の責務を説いた『英雄と群衆』(1882)がある。
[渡辺雅司]
『石川郁男訳『進歩とは何か』(1994・成文社)』▽『A・ヴァリツキ著、日南田静真他訳『ロシア資本主義論争』(1975・ミネルヴァ書房)』