改訂新版 世界大百科事典 「ミュール精紡機」の意味・わかりやすい解説
ミュール精紡機 (ミュールせいぼうき)
mule spinning machine
精紡機の一種。1779年,イギリスの技術者S.クロンプトンが発明。細番手の綿糸を紡ぐのに,当時の紡績機では細い糸が張力に耐えられずに切れてしまうため,長繊維を用いて手作業で作っていた。そこでクロンプトンは,ジェニー機のキャリッジの上にスピンドルを置き,ジェニー機でスピンドルの立っている位置にウォーターフレームのローラーを取り付けた機械を発明した。こうすると,ウォーターフレームの長所であるローラーによる糸の引伸しと,ジェニー機の手加減によって調節される撚り(より)かけが組み合わされ,細糸が機械で製造されるようになった。
なおこの機械は,二つの紡績機をかけ合わせて造られたことから,ウマとロバの合いの子ラバmuleにちなんでミュール機と呼ばれるようになった。動作が間欠的であり,また駆動が水力や蒸気力ではなく手動ではあったが,細糸が機械製造できるようになった意義は大きく,クロンプトンが特許申請しなかったこともあって,ミュール機は1780年代に急速に普及した。その後,幾多の改良が加えられ,1825年にはロバーツRichard Roberts(1789-1864)が自動ミュール機の特許を取っている。さらに,連続精紡機であるリング精紡機,フライヤー精紡機などが発明されているが,現在でも高級糸の精紡にはミュール機が使用されている。
→精紡機 →紡績
執筆者:日向 実保
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