日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロンプトン」の意味・わかりやすい解説
クロンプトン
くろんぷとん
Samuel Crompton
(1753―1827)
イギリス産業革命期の発明家。ミュールmule紡績機の発明で知られる。ランカシャーのボールトン郊外の農家に生まれる。幼時期に父と死別したため早くから織布工として生計をたて、原料糸の自給のためジェニー紡績機を使用したことから、1772年以降その改良を志す。1779年、水力紡績機のローラーによる粗糸引伸しの機構とジェニー紡績機の紡錘による撚(よ)りかけの原理を組み合わせた紡績機を考案した。この機械はジェニーと同じく、撚りかけと巻き取りが交互になされ、その操作と構造は水力紡績機よりも複雑だったが、経(たて)糸、緯(よこ)糸のいずれも生産が可能で、しかも細糸が生産できる点でそれら両機種より優れており、急速に普及した。ミュール(ラバ。ウマとロバの混血)の名は、両機種の特徴を兼ね備えていることに由来する。当初、ミュールは手動であったが、その後動力化が試みられ、1830年、発明家ロバーツにより自動ミュール紡績機として完成され、19世紀末までイギリス綿工業の主力機種となった。しかしクロンプトン自身は、1780年に特許をとることなくミュールを公開したため、この発明によってほとんど得るところがなく、1812年国会によりわずか5000ポンドの一時金を与えられただけであった。経営の才に恵まれなかったため、彼自身の事業は失敗し、失意のうちにボールトンで没した。
[水野五郎]