アメリカの実験物理学者。ミリカンの油滴実験で知られる。3月2日イリノイ州モリソンに生まれる。高等学校卒業後、裁判所の記録係を務めたが、1886年オバーリン・カレッジの予科に入学、卒業後2年間予科の初等物理学の教師をした。これがきっかけとなって、コロンビア大学物理教室に赴き、学位取得(1895)、その後シカゴ大学助手(1896)、助教授(1902)を経て、物理学教授となった(1910)。第一次世界大戦中は、戦時研究に参画、対潜水艦兵器の開発にあたった。1921~1945年カリフォルニア工科大学教授、同大学ノーマン・ブリッジ研究所所長を務めた。
1890年代のアメリカでは物理学はまだ揺籃(ようらん)期にあり、彼は初等物理学などの教科書を著し、教育に専念するとともに、アメリカの物理学研究の土台づくりに尽力した。1907年、研究テーマを電子の電荷の測定に絞り、キャベンディッシュ研究所を中心に、タウンゼントJ. S. Townsend(1868―1957)、C・ウィルソン、トムソン、H・ウィルソンHarold A. Wilson(1874―1964)らが開発した水滴法を改良、発展させ、油滴法を発明(1916)、電子の電荷量(電気素量)の精密測定に成功した(1917)。また、1912~1915年にかけて光電効果の研究を進め、アインシュタインの光電子のエネルギーと振動数との間の関係式を実験的に証明し(1914)、光電子効果によるプランク定数の最初の決定を行った。1923年電気素量の測定と光電効果の研究に対してノーベル物理学賞を受けた。さらに、紫外線、X線領域での分光学的研究を行い、「ミリカン線」を発見(1920)、また宇宙線の研究も行い、その起源を論じ、1930年代の宇宙線研究の基礎を築いた。1953年12月19日カリフォルニア州サン・マリノで死去した。
[大友詔雄 2018年11月19日]
『中村誠太郎・小沼通二編『ノーベル賞講演 物理学 第4巻』(1979・講談社)』▽『奥田毅著『実験物理の歴史』(1975・内田老鶴圃新社)』
アメリカの物理学者。イリノイ州モリソンの生れ。1891年オハイオ州のオーバリン・カレッジを卒業,母校で初等物理学を教えることになったことから物理学への関心を深め,物理学をさらに学ぶために93年コロンビア大学の大学院に入った。95年に学位を取得した後は,パリやベルリン,ゲッティンゲンで学び,96年シカゴ大学に新設されたライヤーソン研究所の助手となり,1910年同大学教授,21年からはカリフォルニア工科大学教授をつとめた。電気が原子的な構造をもつものであるか否かを解明するために,1909年油滴実験による電気素量eの精密測定を開始し,約6000V/cmの強い電場を使用する巧妙な装置内での油滴の移動速度の測定から,1000分の1の精度でeの値を決定した。12年から15年にかけては,光電効果の実験を行い,アインシュタインの光量子仮説中の局在化した放射エネルギーという概念に実験的基礎を与えようとしたが,この実験によってプランク定数の値も約0.5%の精度内で得ることができた。またカリフォルニア工科大学に移ってからは宇宙線の研究にも取り組み,V.F.ヘスが発見した高い高度で増加する放射線の起源が地球にはないことを明らかにし,〈宇宙線〉の名称を提案(1925)した。その後も宇宙線研究で指導的な役割を果たし,陽電子を発見したC.D.アンダーソンも彼の弟子の一人であった。23年電気素量ならびに光電効果の研究によってノーベル物理学賞を受賞。
執筆者:日野川 静枝
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…このeを電気素量という。電子の電荷の測定としては,油滴を用いたミリカンの実験(ミリカンの油滴実験ともいう)が有名である。この実験はアメリカの物理学者R.A.ミリカンが1909年から始めたもので,微小な油滴が空気中を運動するとき,油滴に働く力と空気の粘性力のつりあいにより,油滴が一定速度で動くことを利用する。…
※「ミリカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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