アメリカの社会学者。テキサス州に生まれる。大恐慌に続くニューディール期に20歳代を過ごしながら、テキサス大学で学部と大学院修士課程を終え、ウィスコンシン大学の大学院博士課程に進む。1941年に博士号を得る。メリーランド大学、ついで第二次世界大戦後はコロンビア大学で教職につき、1962年3月20日心臓病のため急死するまで、短い期間ではありながら、研究調査活動あるいは著作や講演に、ヨーロッパや旧ソ連、中南米諸国にまで足を伸ばし活躍を続けた。
ミルズの初期の思想の基盤となったのはベブレンとデューイであり、とくにデューイのプラグマティズムは、ミルズの生涯を通じて、その実証主義的な行動を重視する研究姿勢の支柱となった。ウィスコンシン大学でドイツから亡命してきた社会学者ガースHans Heinrich Gerth(1908―1978)と会ってマックス・ウェーバーの存在を教えられ、ミルズのなかでアメリカ的プラグマティズムとヨーロッパの古典的社会学とが結び付けられた。
ミルズが学問的に活躍した1950年代のアメリカは、第二次世界大戦後の安定と経済的繁栄を謳歌(おうか)しながら、社会構造的には、強大な支配統治機構と、私的生活に没入しながら実は「組織人」化していく人々のつくりだす大衆社会状況とに二極化しつつあった。ミルズの学問的関心は、まず、その底辺層のプエルト・リコ移民および労働者階級の研究に向けられ、ついで中間層の実証的調査研究に進み、代表的著作の一つ『ホワイト・カラー』(1951)を生む。そして1956年、ミルズはその最大の労作とされる『パワー・エリート』を著して、アメリカの大衆社会状況の頂点に君臨する権力機構の中核を、批判的に分析した。それは、アメリカ社会およびアメリカ社会学界の既成の理念に対する一大衝撃であり、ミルズ自身の内部に生じたと思われる思想的変化と相まって、この時期以後、学界からしだいに孤立し、親交のあったガースからも離れて、学問的には異端者の道を歩み始める。
その後のミルズは、自らの内部における自己主張と自己批判との相克に悩みながら、メキシコ、キューバ、ソ連への訪問を契機に、しだいに反体制的なラディカル社会学radical sociologyに傾斜し、死の前年には『キューバの声』を著して明瞭(めいりょう)に革命の側にたち、その後のアメリカのラディカル社会学派のある意味での先導者的な役割を演じた。
[杉 政孝]
『杉政孝訳『ホワイト・カラー』(1957/改訂版・1971・東京創元社)』▽『鵜飼信成・綿貫譲治訳『パワー・エリート』上下(1958/UP選書・1969・東京大学出版会)』▽『鈴木広著『ミルズの理論』(新明正道監修『現代社会学のエッセンス』所収・1971/改訂版・1996・ぺりかん社)』
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…アメリカの社会学者ミルズC.W.Millsの出世作で1951年刊。20世紀になって注目されはじめた新中間層を,その服装上の特徴からホワイトカラーととらえ,その実態をアメリカの中間層に対する具体的な調査にもとづいて鋭く分析した。…
…このようにして,人間性そのものが組織内での少数支配者に優越した地位を与えるというのである。 C.W.ミルズは1950年代のアメリカの権力構造を明らかにするために,制度論的要素を重視した。ミルズは〈重大な結果を伴うような決定を下しうる地位〉を占めている人々をパワー・エリートと呼び,政治・経済・軍事のおのおのの頂点にいるパワー・エリートが,相互に密接な関連をもってアメリカを支配していると指摘した(《パワー・エリート》1956)。…
…そのような〈存在と意識〉のゆえに,彼らは〈体制への同一化〉を行い,賃金労働者に対しては〈権力を媒介する役割を果たす〉傾向が強い。したがって,C.W.ミルズが指摘したように,〈新中間層は,政治的に後衛的な意識と行動様式をとる〉傾向を有する。しかしながら,新中間層にあっては,今や職場の官僚化も進み,その結果,労働のみならずパーソナリティまでもが合理化の対象とされるなかで,人間個人としての合理性や自主性の喪失が深刻である。…
…アメリカの社会学者ミルズC.W.Millsの出世作で1951年刊。20世紀になって注目されはじめた新中間層を,その服装上の特徴からホワイトカラーととらえ,その実態をアメリカの中間層に対する具体的な調査にもとづいて鋭く分析した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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