四訂版 病院で受ける検査がわかる本 の解説
メタボリックシンドローム健診
メタボリックシンドロームとは
過食や運動不足など、さまざまな生活習慣が強く影響している疾患に糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧などがあります。これらが合併した状態を、古くはシンドロームX、内臓脂肪症候群、インスリン抵抗性症候群などと呼んでいましたが、1999年、世界的に「メタボリックシンドローム」と呼ぶようになりました。
糖尿病や脂質異常症、高血圧は、単独でも動脈硬化の危険因子です。メタボリックシンドローム(以下、メタボ)は動脈硬化の危険因子が重複している状態のため、動脈硬化性疾患の発症率、それによる死亡の危険性がより高くなることがわかっています(図1、2)。
動脈硬化性疾患として代表されるものには、急性心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患や、脳梗塞や脳卒中などの脳血管障害などがあります。
■図1 危険因子の合併数と冠動脈疾患および脳梗塞発症の関係
■図2 危険因子の合併数と冠動脈疾患と脳卒中の死亡の関係
メタボリックシンドロームの診断基準
2005年、日本におけるメタボの診断基準が策定されました(表1)。
まず、おなかの中に内臓脂肪の蓄積があることが診断の第1基準とされます。内臓脂肪を厳密に調べる場合、へその高さで腹部CTを行い、内臓脂肪面積が100cm2以上であれば、内臓脂肪型肥満と判定します。
ただし、日常の臨床ではより簡便な方法、すなわち、立ったまま息を軽く吐いた状態でウエスト周囲を測定し、男性は85㎝以上、女性は90㎝以上であれば、内臓脂肪型肥満と判定されます。
この肥満に加え、脂質異常・高血圧・空腹時高血糖のうち、2つ以上を合併している場合、メタボと診断されます。
■表1 日本のメタボリックシンドローム診断基準
●内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積 必須項目
・ウエスト周囲径 男性≧85㎝、女性≧90㎝
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)
●上記に加え以下のうち2項目以上
・高トリグリセリド血症 ≧150mg/dℓ
かつ/または
・低HDLコレステロール血症 <40mg/dℓ
男女とも
・収縮期血圧 ≧130mmHg
かつ/または
・拡張期血圧 ≧85mgHg
・空腹時高血糖 ≧110mg/dℓ
内臓脂肪とアディポサイトカイン
脂肪細胞は、脂肪を蓄積するだけでなく、多くのホルモンやサイトカインと呼ばれる生理活性物質(アディポサイトカインと総称される蛋白質)を産生・分泌しています。近年、このアディポサイトカインが糖や脂質の代謝、血圧の調節などに重要な役割を果たしていることが明らかになりました。この物質にはいくつもの種類があり、善玉・悪玉の2つのタイプに分けられます。たとえば善玉のアディポネクチンは、アディポサイトカインの中で最も大量につくられ、糖や脂質の代謝の促進、血圧を上げ過ぎないようにする、動脈硬化を防ぐなどの働きをしています。一方、悪玉のPAI-1は血栓を形成しやすく、動脈硬化を進行させ、TNF-αはインスリンの働きを阻害して糖尿病を引き起こす働きをしています。
このアディポサイトカインの分泌に内臓脂肪が深くかかわっています。正常な状態では善玉・悪玉のアディポサイトカインの分泌はバランスよく保たれていますが、内臓脂肪が蓄積すると分泌異常がおこって、善玉が減少し、悪玉が増加し、その結果、脂質異常症・糖尿病・高血圧→動脈硬化→冠動脈疾患・脳血管障害という流れがつくられていくと考えられています。
高LDL-コレステロール血症との関連
冠動脈疾患の重要な危険因子に、高LDLコレステロール血症(以下、高LDL-C血症)があります。
メタボの診断基準にはLDL-C値の基準は定められていませんが、高LDL-C血症とメタボを併発すると、冠動脈疾患を引き起こすリスクは一段と高くなることがわかっています。そのため、内臓脂肪の減少を積極的に行うとともに、高LDL-C血症を含む、他の危険因子もコントロールすることが大切です。
メタボリックシンドロームが疑われる人が増加傾向
近年の日本では、食事内容や食習慣の明らかな変化に伴って、メタボが疑われる人が増加しています。
国民健康・栄養調査(2007年)によれば、メタボが強く疑われる20歳以上の人の割合は、男性26.9%、女性9.9%。また、男性の22.5%、女性の7.3%がその予備群であると考えられます。40歳~74歳では、男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボが強く疑われる、もしくは予備群であり、メタボの該当者数は約1,070万人、予備群数は約940万人、総数約2,010万人と推定されています。
このような現状に対し、平成20年度から厚生労働省は、メタボを対象とした「特定健診・特定保健指導」を開始しました。これにより、40歳以上の健康保険組合・国民健康保険加入者には、特定健康診査および特定保険指導が義務づけられています。
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報