タリウム(読み)たりうむ(英語表記)thallium

翻訳|thallium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タリウム」の意味・わかりやすい解説

タリウム
たりうむ
thallium

周期表第13族に属し、アルミニウム族元素の一つ。1861年イギリスのクルックスが硫酸製造工場の鉛室残渣(ざんさ)から分光分析によって発見、そのスペクトルが美しい緑の輝線を示すことから、緑の小枝を意味するラテン語thallusにちなんで命名された。いくつかの鉱石があるが、銅、鉛、亜鉛などの硫化鉱の焙焼(ばいしょう)煙灰がおもな原料であって、水で抽出し、不純物を除いてから塩化タリウム(Ⅰ)として沈殿させる。これを酸性溶液から亜鉛で還元すると金属が得られる。鉛に似た軟らかい白色金属。2種類の変態が知られているが、常温ではα(アルファ)型が安定、230℃に熱すると体心立方格子のβ(ベータ)型に転移する。空気中では酸化されるので、普通、石油の中に入れて保存する。ハロゲン化水素酸には溶けないが、通常の酸には溶ける。酸化数ⅠとⅢの化合物をつくるが、前者のほうが安定である。酸化数Ⅱの化合物のように見える、たとえばTlCl2は実際はTlI[TlIIICl4]のような混合酸化数の化合物である。ハロゲン化物は銀塩と同じく水に不溶だが、水酸化物はアルカリ金属塩と同じく水に溶けて強アルカリとなる。硫化物は赤外光電池、炭酸塩はガラス添加物として使われ、臭化物ヨウ化物は蛍光物質添加物、赤外線透過用の光学材料となる。ギ酸タリウム放射線遮蔽(しゃへい)剤として用いられる。硫酸塩殺鼠剤(さっそざい)として使われたことがあるが、現在は使用を禁止している国が多い。タリウムおよびタリウム化合物は毒性が強く、蓄積性毒物である。

[守永健一・中原勝儼]



タリウム(データノート)
たりうむでーたのーと

タリウム
 元素記号  Tl
 原子番号  81
 原子量   204.383
 融点    303.5℃
 沸点    1457℃
 比重    11.85(測定温度20℃)
 結晶系   α;六方
       β;立方
 元素存在度 宇宙 0.182(第70位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 0.45ppm(第61位)
       海水 20×10-3μg/dm3

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タリウム」の意味・わかりやすい解説

タリウム
thallium

元素記号 Tl ,原子番号 81,原子量 204.3833。周期表 13族に属する。 1861年イギリスの物理学者で,化学者の W.クルックスにより,ドイツのハルツ地方の硫酸工場の鉛室沈殿中から分光分析により発見された。スペクトル線が若葉を思わせる黄緑色であったことから,ギリシア語の若葉に相当するタロスにちなんで命名された。地殻存在量 0.5ppm,海水中の存在量は 0.001 μg/l 。単体は青白色の非常に軟らかい金属で,空気中では表面が酸化し,酸化膜は厚くなるので,石油中に保存することが多い。合金をつくりやすく,水銀とも容易にアマルガムをつくる。比重 11.85。 174℃で蒸発しはじめる。融点 303.5℃。原子価は1価,3価。低融点合金,軸受合金などに利用されるほか,硫酸塩は殺鼠剤,殺虫剤として用いられる。

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