イタリアの女流作家。ローマに生まれる。アルベルト・モラービアの最初の妻。短編集『秘密の遊戯』(1941)で幸運なスタートを切る。「自伝的要素を基盤とした魔法のリアリズム」を、現実を超えた寓話(ぐうわ)の世界にまで拡大させた長編大作『虚構と魔法』(1948)でビアレッジョ賞を獲得、第二次世界大戦後の代表的作家としての地位を固めた。『アルトゥーロの島』(1957。59年ストレーガ賞受賞作。邦訳『禁じられた恋の島』)、ナチス占領下のイタリアを叙事詩的に描いた長編『歴史』(1974。多くの読者のために、最初から異例の廉価版で刊行し、話題をよんだ)、詩集『少年たちに救われた世界』(1968)など、いずれも小さな、弱い者からの視線を強靭(きょうじん)に貫いている。最後の作品となった『アラチェーリ』(1983)は彼女の神話的・バロック的想像世界を余すところなく伝えるが、きわめて個人的な死と狂気、疎外された愛という苦悩に満ちたものである。その後自殺を図り、その後遺症のための半身不随のまま、ローマの病院で生涯を終えた。
[望月紀子]
『大久保昭男訳『禁じられた恋の島』(1964・河出書房新社)』
イタリアの女流作家。ローマ生れ。寓話的長編小説《虚言と魔法》で1948年度ビアレッジョ賞を受賞。59年にストレーガ賞を得た《禁じられた恋の島》は世界との直接的な接触を重ねて成長してゆく少年を詩的なリアリズムの手法で描いた作品である。ナチス占領下のイタリアにおける一人の女性を中心とした叙事詩的長編小説《歴史》(1974)のエピグラムに,〈字を読めない人のために〉と記し,〈トータルなサイクル--誕生から死へ,死から誕生へ--をとおしての,普遍的かつ個別的な経験である現実〉の表現を自己の文学活動の核に据えるモランテは,ギターを携えて歌い歩くことを夢見る現代の吟遊詩人でもある。《アラチェーリ》(1983)は,極度に個人化された視点で,ひとつの狂気と死とを追跡することにより,疎外の終末的状況にある現代そのものを表現した小説である。
1941年作家A.モラビアと結婚したが,離別。83年,自殺を図った。
執筆者:望月 紀子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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