モリブデン酸塩(読み)モリブデンさんえん(英語表記)molybdate

改訂新版 世界大百科事典 「モリブデン酸塩」の意味・わかりやすい解説

モリブデン酸塩 (モリブデンさんえん)
molybdate

一般式xMI2O・yMoO3zH2Oで表されるモリブデン酸の塩。最も簡単な組成のものはオルトモリブデン酸塩MI2MoO4である。モリブデン酸は縮合する傾向が強く,たとえばカリウム塩K2MoO4水溶液はアルカリ性を呈するが,これに酸を加えていくと水素イオン濃度により縮合が進み,Mo2O72⁻やMo7O246⁻,HMoO245⁻,Mo8O264⁻,H2Mo8O262⁻などのイソポリモリブデン酸イオンを生成する。これらの間には平衡が成立していると考えられるが,適当な濃度のところで各種の塩が取り出されている。これらのうち古く四モリブデン酸塩MI2Mo4O13のように書かれるものはメタモリブデン酸塩と呼ばれていたが,実際にはイソポリモリブデン酸塩の八モリブデン酸塩MI4[Mo8O26]であり,パラモリブデン酸塩と呼ばれていたものはMI6[Mo7O24]のような七モリブデン酸塩である。そのほかリンモリブデン酸塩などのようなヘテロポリ酸塩は,リンを中心原子としてこれをポリ酸イオンが配位した,モリブドリン酸塩である。

アンモニウム塩(NH42MoO4酸化モリブデン(Ⅵ) MoO3の濃アンモニア水溶液にアルコールを加えると沈殿する。無色単斜晶系晶。熱するとアンモニアを放って分解し,MoO3となる。水に溶ける。カリウム塩K2MoO4は酸化モリブデン(Ⅵ)と炭酸カリウムを融解して得られる。無色単斜晶系晶。比重2.91(18℃)。水に溶けやすい。ナトリウム塩Na2MoO4は水溶液から結晶させると水和物が得られる。これを脱水すると無水和物が得られ,いずれも無色結晶である。無水和物は比重3.28。2水和物と10水和物とがある。

正しくは八モリブデン酸塩MI4[Mo8O26]である。[Mo8O264⁻の構造は図のようなポリ酸イオンである。アンモニウム塩(NH44[Mo8O26]・5H2Oはパラモリブデン酸アンモニウム水溶液に計算量の塩酸を加えると得られる。無色晶。水に溶ける。カリウム塩K4[Mo8O26]・6H2Oも無色晶で,水に溶ける。ナトリウム塩Na4[Mo8O26]・14H2Oは無色晶で,空気中では風解して2水和物となる。
パラモリブデン酸塩
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「モリブデン酸塩」の解説

モリブデン酸塩
モリブデンサンエン
molybdates

モリブデンのいわゆるオキソ酸の塩で,オルトモリブデン酸塩(慣用名)M2MoO4nH2O(n≧0)をさすことが多いが,Moは多くのイソポリ酸塩やヘテロポリ酸塩をつくるので,これらも含めた広義で用いることもある.【】M2MoO4nH2O:アルカリ金属,アルカリ土類金属,そのほかAl,Cr,Co,Fe,Bi,など多くの金属の塩が得られている.Ca塩CaMoO4[CAS 7789-82-4]は,灰水鉛石(powellite)[CAS 14020-51-0]として天然にも産出し,正四面体型のMoO42-を含む.Na,Kなどの金属酸化物,または炭酸塩とMoO3混合溶融すると,オルト酸組成の複酸化物を生じるが,これは正八面体型のMoO6が稜共有で鎖状につながった構造をもつ場合もある.複酸化物を水で再結晶して水和物とすれば,MoO42-を含むイオン結晶となる.たとえば,Na2MoO4・2H2O[CAS 7631-95-0]は斜方晶系で,独立した四面体型のMoO42-をもつ.Mo-O1.76 Å.アルカリ金属塩は無色で,加熱すると水和水を失う.水に可溶で,水溶液は微アルカリ性(たとえば,Na塩の5% 水溶液は pH 約10)を示す.重金属,アルカロイド,有機塩基などの塩は水に不溶のものが多い.Na塩は,分析試薬,腐食防止剤,金属めっきの光沢剤,アルカロイドなどの試薬,ホスホモリブデン酸などの製造原料,植物の微量栄養成分補給用肥料,無機および有機レーキ顔料の原料などに用いられる.Ba塩は,電子および光学器械や,顔料に利用,Pb塩も顔料などにも用いられる.Li塩は,石油クラッキングの触媒や鉄鋼圧延時の添加剤,Bi塩は,プロペンのアクリロニトリルへの酸化触媒,Fe塩は,メタノールのホルムアルデヒドへの酸化触媒に用いられる.【】イソポリ酸塩:
(1)二モリブデン酸塩;K2Mo2O7などで,アルカリ金属,アルカリ土類金属などの塩が得られている.K塩は,KOH水溶液にMoO3を計算量を加えて蒸発させると得られる.
(2)七モリブデン酸塩;M6[Mo7O24].通称,パラモリブデン酸塩.
(3)八モリブデン酸塩;M4[Mo8O26].通称,メタモリブデン酸塩.
(4)そのほか,M2[Mo6O19],M6n[(Mo8O27)n]などがある.イソポリ酸塩は,いずれも八面体型のMoO6が稜を共有して結合した構造をもつ.【】ヘテロポリ酸塩:八面体型のMoO6のかごのなかにXO4,XO6(X = ヘテロ原子)などが存在し,それぞれO共有で結ばれた構造である.Moには,[XnMo12O40](8-n)-,[XnMo18O62](16-2n)-,ほか Mo6,9,10 のものなどがある.[PMo12O40]塩はアクロレインをアクリル酸に選択的に酸化する触媒である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android