翻訳|oak
ブナ科コナラ属Quercusの樹木の総称的英名。コナラ属は約400種の樹木からなり,主として北半球の温帯から熱帯に分布する。ふつうはコナラ亜属Subgen.Quercusとアカガシ亜属Subgen.Cyclobalanopsisに二大別されるが,それぞれが独立の属と考えられる場合もある。両者のおもな違いを述べると,コナラ亜属の樹種は北半球の温帯を中心に分布し,多くは落葉樹で,果実の殻斗(種子,いわゆるどんぐりの基部を包んでいる椀状の総苞)の表面がうろこ状であるのに対し,アカガシ亜属の樹種はおもにアジアの熱帯から暖温帯に分布し,すべて常緑で,殻斗の表面は輪層状をなしている。これは前者に属する日本のナラ類(ミズナラ,コナラ,カシワなど)と後者のカシ類(アカガシ,シラカシ,アラカシなど)を比較すると容易に理解できる。カシ類はアジアだけのものであるから,欧米でオークという場合,通常はコナラ亜属の樹種を指している。文学作品や辞書類でオークがカシと訳されていることが多いが,カシ類は常緑樹木,ナラ類は落葉樹木であり,そのほか両者は樹形,樹皮,木材の性質も異なっているので,オークをカシとするのは欧米人が感じているオークのイメージに合わない。日本語に訳すとすればナラが適当であろう。なおヨーロッパのオークの代表としてはQ.robur L.およびその近縁種Q.petraea(Mattuschka)Liebl.をあげることができるが,この2種は概して樹木相の貧弱なイギリスにも広く分布し,イギリス人がオークというときはまずこの2種を頭に描く。イギリス人にとっては,どっしりとした太い幹,大きな樹冠をもつこのオークこそがあらゆる樹木の王様であり,その木材は世界の最高級材であると信じている。貴人の死にオークの棺が用いられたのもその表れで,今もその慣習が残っている。一般的にはオーク材は建築,家具,洋酒樽など広い用途があり,かつては船舶用材として重用された。
執筆者:緒方 健
かつてヨーロッパ大陸およびイギリスをおおったオークの林は,文化史・社会経済史的にきわめて重要な意味をもった。まずそれはドルイド教において,樹木崇拝の対象であった。しばしば落雷にみまわれるので,神の依代(よりしろ)と考えられたのである。つぎにそれは重要な食料源であった。中世農民が秋から冬にかけて森にブタを放ち,どんぐりを食べさせて太らせたからである。第3にそれは,その堅牢な材質のゆえに,建築および家具製造用の最良の用材であった。とくにイギリスでは王室の木とされ,〈王のオーク〉の伝説(チャールズ2世がピューリタン革命中に幹の洞穴にかくれて助かったという)を生んだ。さらには17~18世紀に,イギリスが海洋国家として“七つの海”を制覇したのは,イギリス産の良質のオーク材で建造された海軍船のおかげであるというので,国民は意識的にこの木を尊んだ。鉄に先立つ文明史的意義を有したのである。
執筆者:川崎 寿彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ブナ科(APG分類:ブナ科)コナラ属の総称。コナラ属にはシラカシ、アカガシなど常緑樹を主とするサイクロバラノプシス亜属と、コナラ、ミズナラなどの落葉樹を主として、ウバメガシ、コルクガシなどの常緑樹を含むレピドバラヌス亜属、そのほか、常緑と落葉のあるエリスロバラヌス亜属とがある。果実は、開花したその年の秋に成熟するものと翌年の秋に成熟するものとがあり、球形または楕円(だえん)形の堅果で、下半部ないし基部が総包葉(殻斗(かくと))で包まれる。材質が堅硬で、弾性のある良材となるものが多く、オーク材とよばれ、家具や器具をつくるのに用いる。ウイスキーやぶどう酒の醸造用の樽(たる)材に使われ、薪炭(しんたん)材、シイタケ原木などにもする。
[小林義雄 2020年1月21日]
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
…その中心となるのは,コナラ属Quercusアカガシ亜属の数種である。日本ではオーク(英名oak)をカシと訳すことが多いが,ヨーロッパのものはコナラ属コナラ亜属の広葉樹で,ナラと呼ぶ方が近い。 アラカシQ.glauca Thunb.(英名blue Japanese oak)(イラスト)は最も普通なカシで,枝葉の武骨な様子から,その名がある。…
…ミズナラの材はコナラ属Quercusの材の総称であるナラ材のうち,世界一優秀なものといわれる。 コナラ属Quercusは世界に約500種あり,ヨーロッパでoakといわれるものもこれに属する。いずれも材は堅く有用であるが,利用は分類群により少しずつ異なっている。…
…ブナ科コナラ属Quercusのうち落葉性のコナラ亜属樹種が一般にナラ類と総称される。英語のオークもふつうは落葉性のナラ類をさすが,常緑性の種も含むコナラ属全体を意味することもある。しかし日本でナラといえば,ミズナラおよびコナラ,ときにナラガシワQ.aliena Blumeを含めたものをさし,炭焼きや林業家も同じコナラ亜属のカシワあるいはクヌギおよびアベマキなどとは区別している。形態的にも顕著な違いがあり,ミズナラやコナラは葉が倒披針形で,どんぐりが1年で熟し殻斗の鱗片は短く覆瓦状であるが,カシワは殻斗の鱗片が長く葉も大きい。…
…その中心となるのは,コナラ属Quercusアカガシ亜属の数種である。日本ではオーク(英名oak)をカシと訳すことが多いが,ヨーロッパのものはコナラ属コナラ亜属の広葉樹で,ナラと呼ぶ方が近い。 アラカシQ.glauca Thunb.(英名blue Japanese oak)(イラスト)は最も普通なカシで,枝葉の武骨な様子から,その名がある。…
…木工にとって重要なろくろ技術はメソポタミア地方の古代国家の家具に多くみられるため,この技術の発生地はメソポタミア地方とされている。イギリスの家具史研究家パーシー・マッコイドは家具の歴史を,使用された木材から〈オーク(ナラ,カシ)の時代 1400‐1660年〉,〈ウォルナット(クルミ)の時代 1660‐1720年〉,〈マホガニーの時代 1720‐70年〉,〈サテンウッドの時代 1770年~19世紀初期〉と時代区分している。19世紀中期以後は主役をなす木材はなく,家具の使用目的に応じて多種多様な木材が使われるようになった。…
…というのは,P.C.タキトゥスが〈森林に覆われうす気味の悪い〉と伝える中部ヨーロッパは,民族大移動の時代以来,森林面積が約1/3に減ったと推定されるからであり,しかも開墾のおもな対象となったのは,山地および高緯度の針葉樹林ではなく,肥沃な平地の広葉樹林帯だったからである。例えば東ヨーロッパに現在比較的残されているオークとブナ類(シデなど)の混交林は,かつては北ドイツ,デンマーク,ベルギー,イギリスといった,今日比較的森林に乏しい地域にまで広がっていたのだが,今ではすっかり姿を消し,ヨーロッパアカマツがかろうじてその代役を務めている。カバノキ,トネリコ,ポプラ,ときにはオークとすら混交林をなすほど適応性の強いヨーロッパアカマツは,かつてのヨーロッパの代表的樹木ヨーロッパブナにかわって,今日ヨーロッパで最も広範囲に見られる樹種である。…
※「オーク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新