日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤブコウジ」の意味・わかりやすい解説
ヤブコウジ
やぶこうじ / 藪柑子
紫金牛
[学] Ardisia japonica Blume
ヤブコウジ科(APG分類:サクラソウ科)の常緑小低木。高さ10~20センチメートル、地下茎を伸ばす。葉は輪生状に2、3段集まってつき、長楕円(ちょうだえん)形で長さ5~13センチメートル、縁(へり)に細かい鋸歯(きょし)がある。7~8月、葉腋(ようえき)や鱗片葉(りんぺんよう)の腋に散形花序をつくり、白色花を2~5個、下向きに開く。花冠は深く5裂して径6~8ミリメートル、細点がある。雄しべは5本。果実は冬中、葉の下につき、球形で径約5ミリメートル、赤く熟す。やや乾いた丘陵地の林内に生え、北海道の奥尻(おくしり)島から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。庭木、鉢植えとし、園芸品種も多い。『万葉集』には山橘(やまたちばな)として5首が詠まれている。ヤブコウジ属はアジア、アメリカ、オーストラリアの暖帯から熱帯に約400種ある。
[小林義雄 2021年3月22日]
文化史
冬に赤い実が映え、春日王(かすがのおおきみ)は「あしひきの山橘の色に出(い)でよ語(かた)らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ」(万葉集・巻4)と恋のシグナルに例えた。冬も枯れない葉と美しい赤い実は「卯杖(うづえ)の飾り」(『枕草子(まくらのそうし)』)、「髪そぎの時の山菅(やますげ)に添ふる」(『古今栄雅(えいが)抄』)、「祝儀(しゅうぎ)のかざり物」(『貞丈雑記(ていじょうざっき)』)などに古くは使われた。正月初卯(はつう)の日にウツギの枝をヒカゲノカズラで巻き、ヤブコウジを挿す行事は、京都の上賀茂(かみがも)神社の卯杖の神事に残る。かつて男子5歳、女子4歳になると、髪の先を肩あたりで切りそろえる髪削(かみそぎ)の儀式が行われ、ヤブコウジを髪に挿した。正月などに松竹梅と組み合わせてヤブコウジを飾る風習は江戸時代から記録に残る。明治中期には園芸品種が大流行し、投機の対象とされ、新潟県は県令で売買を禁じた。
[湯浅浩史 2021年3月22日]