日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウツギ」の意味・わかりやすい解説
ウツギ
うつぎ / 空木
[学] Deutzia crenata Sieb. et Zucc.
ユキノシタ科(APG分類:アジサイ科)の落葉低木。別名ウノハナ。幹は高さ約2メートルで、よく枝分れする。幹が中空で、そのために空木(うつぎ)とよばれる。葉は対生し、有柄。葉身は卵形または広披針(こうひしん)形で、縁(へり)に鈍い鋸歯(きょし)がある。葉の表裏ともに小さな星状毛が多く、ざらつく。5~6月、枝の先に多数の白い花を総状または集散花序につける。5枚の花弁からなる花冠はらっぱ状に開き、径約1センチメートル、萼筒(がくとう)と萼裂片には星状毛が密生する。雄しべは10本、花弁よりやや短く、花糸の両側に翼があって、上方で歯状に終わる。花柱は3~4本あり、蒴果(さくか)になってもそのまま残る。子房は下位。蒴果は球形で径4~5ミリメートル。山野の日当りのよい所に普通にみられ、北海道、本州、四国、九州に広く分布する。観賞用として庭木や生け垣に使われるほか、材で木釘(くぎ)をつくる。関東地方以西の山地の谷間の岩上などに生える別種ヒメウツギD. gracilis Sieb. et Zucc.は、ウツギより花期が早く、葉はやや薄く、表面は鮮緑色である。関東地方西部、中部地方東部の山地岩上にまれに生える別種ウメウツギD. uniflora Shiraiは、朝鮮にも分布し、少数の白い花を下向きにつける。
[若林三千男 2021年3月22日]
文化史
民俗学者の折口信夫(おりくちしのぶ)博士によると、古くはウツギの花の咲きぐあいでその年の豊凶を占ったといい、多い年は豊作と考えられた。これは、ウツギの花が春から初夏への季節の変わり目に咲き、また白く目だつことから、暦の普及していなかったころに季節を知る重要な花であったことによろう。『万葉集』にはウノハナで24首詠まれ、万葉人も関心が高かったことが知られる。ウツギの名は『万葉集』にはないが、『和名抄(わみょうしょう)』に出る。
[湯浅浩史 2021年3月22日]