平安時代には宮中の行事が個々の貴族に広がったようで、互いに「卯杖」を贈り合っている。また、「枕草子」に見える「卯槌」は、用途は「卯杖」と同じだが、形態が「槌」になっている。この卯杖を贈る風習は、江戸時代まで賀茂神社の氏子の間で行なわれていた。→うづえほがい
正月の初卯の日に邪気をはらう呪具として用いられた杖。民間で年占や豊饒(ほうじよう)多産の呪術に用いられた〈祝棒(いわいぼう)〉の習俗に,中国伝来の剛卯杖の影響が加わってできたものといわれている。《日本書紀》持統3年(689)の条に見える例が最も早く,平安時代には大舎人寮や六衛府から宮中に奉献され,また貴族や後宮の女房が贈答しあった。この風習は江戸時代まで賀茂神社などの社家の間で行われた。また参詣者にも分かつようになり,天満宮の初卯詣でには小型の卯杖が授けられた。鷽(うそ)替えのウソの起源を卯杖に求める説もある。なお,薬玉に似た卯槌は卯杖の変形とみられ,内裏で邪気ばらいに使われた。
執筆者:蛸島 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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正月における朝廷の年中行事。正月の初卯の日に、六衛府(ろくえふ)および大学寮、大舎人(おおとねり)寮などから、5尺(約150センチメートル)ほどの杖を天皇、東宮に献上する儀礼。杖によって、邪気を祓(はら)うという意味があった。中国の漢朝に起源があり、桃の枝で剛卯杖をつくり鬼を祓ったという。日本では持統(じとう)天皇の3年(689)よりその存在が確認され、平安時代に盛行したようすは諸儀式書や文学作品にうかがえる。南北朝時代の『建武(けんむ)年中行事』に記載されているが、その後は中絶したようである。
[酒井信彦]
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