改訂新版 世界大百科事典 「ラルース百科事典」の意味・わかりやすい解説
ラルース百科事典 (ラルースひゃっかじてん)
フランスの代表的な百科事典。ラルース出版社Librairie Larousseが発行するもので,数種の百科事典がある。ラルース出版社は1852年にP.ラルースらによって設立されたが,教師であったラルースは,みずからの経験を生かして,あらゆる疑問に答えるような読みやすい辞典として膨大な《19世紀世界大辞典Grand dictionnaire universel du ⅩⅨ siècle》を企画した。これは多くの協力者を使った分冊形式の出版で,1863年に第1巻第1分冊を配本,66年に第1巻が完成し,最終巻(第15巻)まで完結したのは76年,ラルースの死んだ翌年であった。77年と88年に補巻を刊行している。この辞典は,É.リトレの《フランス語辞典》4巻が同じ1863年から刊行を始めたこともあって,語の歴史的用法よりは19世紀後半における用法と事物の説明に力を置き,リトレが採らない技術用語なども大幅に取り上げ,文学的アリュージョンや百科事典的記述もあり,また印象的な挿話を好んで載せたので19世紀のフランス語とフランス文化についての貴重な情報源となった。反面,資料批判が十分でないので科学的正確さに欠けていた。この辞典は辞書出版社としてのラルース社の基礎を据え,97年からはオージュClaude Auge編の《図解新ラルース辞典Nouveau Larousse illustré》8巻(1904完結)が出され1907年には補巻も出版された。この年から57年までABC順の辞書形式の《月刊ラルース》が刊行され改訂に役だったことと,〈農芸〉〈医学〉〈料理〉〈家事〉などの専門分野別の《宝典》を出していたことにも注目すべきである。オージュの子ポールPaul Augeは1924年,小型1巻本の《小ラルース辞典Petit Larousse》を出し,さらに父の8巻本を基に《20世紀ラルースLarousse ⅩⅩ siècle》6巻(1928-33)を刊行,45年まで版を重ねたが50年からは増補訂正を緑色のページに刷って加え,53年にはこのページを1冊にまとめた補巻を出した。60年から初めて〈百科事典〉の名を冠した《ラルース大百科事典Grand Larousse encyclopédique》10巻を出し64年に完結,82-85年に新たな構想で《百科事典的ラルース大辞典Grand dictionnaire encyclopédique Larousse》15巻を刊行した。なお,96年にはCD-ROM版《ラルース・マルチメディア百科》(7万2000項目)を発行した。
執筆者:松原 秀一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報