日本大百科全書(ニッポニカ) 「リサール」の意味・わかりやすい解説
リサール
りさーる
José Rizal
(1861―1896)
フィリピンの民族的英雄。ラグナ州カランバ町の富裕な大借地農の家庭に生まれる。マニラのアテネオ・デ・マニラ学院、サント・トマス大学で学んだのち、1882年スペインのマドリード中央大学に留学、医学と古典文学を修めた。留学中、ヨーロッパの自由主義思想に触発され、同胞の留学生らに呼びかけて、スペインのフィリピン統治改革運動を開始した。彼は初め、小説『ノリ・メ・タンヘレ』(1887)や運動の機関紙『団結』紙上に発表した評論などを通じて、スペイン政府に植民地改革を促す運動に専念したが、1887年に帰国して郷里カランバ町で組織した修道会所領の地代値上げ反対運動が、当局の徹底した弾圧を受け、彼は国外脱出を余儀なくされるという事態を経験して以後、状況によっては革命もやむなしとする急進的な思想を抱くに至り、二番目の小説『反逆』(1891)を公にした。同時に、スペイン政府に向かってする言論活動よりも、むしろフィリピン人自身の間に民族的自覚を育成する仕事に専念するようになった。1892年6月決死の覚悟で再度帰国、7月2日「フィリピン民族同盟」を結成したが、数日にして逮捕され、ダピタン島へ流刑された。1896年8月フィリピン革命が勃発(ぼっぱつ)すると、革命扇動者の容疑を受け、12月30日処刑された。
[池端雪浦]
『ホセ・リサール著、岩崎玄訳『ノリ・メ・タンヘレ』(1976/1986・井村文化事業社)』▽『ホセ・リサール著、岩崎玄訳『反逆・暴力・革命――エル・フィリブステリスモ』(1976・井村文化事業社)』