多衆が集合して暴行または脅迫をし、一地域の平穏を害する罪。1987年(昭和62)の刑法一部改正によって、従来の騒擾罪(そうじょうざい)が騒乱罪と改められた。主謀者は1年以上10年以下の懲役または禁錮、他人を指揮したり率先して勢いを助けた者は6月以上7年以下の懲役または禁錮、附和随行した者は10万円以下の罰金に処せられる(刑法106条)。広義では多衆不解散罪(同法107条)を含む。本罪は、社会法益としての「公共の平穏」を害する罪であり、集団犯罪の典型であるが、内乱罪のように朝憲紊乱(ちょうけんびんらん)を目的とする組織的な犯罪とは異なり、むしろ群集心理に基づく点に特徴がある(したがって、附和随行者の刑は非常に軽い)。本罪の沿革は、自由民権運動の弾圧に多用された旧刑法(1879制定)の「兇徒聚衆罪(きょうとしゅうしゅうざい)」であり、現行刑法になってからも、第二次世界大戦前には、米騒動、農民運動、さらに労働運動の弾圧に活用され、戦後では、1950年(昭和25)前後の四大騒擾事件(平事件(たいらじけん)、メーデー事件、吹田事件(すいたじけん)、大須事件(おおすじけん))が有名である(なお、これらの事件は長期裁判となった)。
本罪が成立するためには、客観的に、一地方の平穏を害するに足る集団的な暴行または脅迫が必要であり、主観的には、「共同意思」、すなわち、多衆が共同して(力をあわせて)暴行または脅迫する意思が必要である。なお本罪の主謀者は、かならずしも暴行または脅迫に直接参加する必要はない。ただ、本罪は群集心理に基づく点に特色があるから、主謀者の存在しない場合もありうる。ちなみに、多衆不解散罪とは、暴行または脅迫をするため多衆が集合し、権限のある公務員(警察官など)から解散の命令を受けることが3回以上に及んでも、なお解散しない罪である。
なお、本罪につき、政治目的でなされる場合には、破壊活動防止法第40条に特別な規定がある。
[名和鐵郎]
内乱罪と並んで集団犯罪の一つであるが,内乱罪のような特定の政治的目的を必要としない。刑法の表記現代化以前は〈騒擾(そうじよう)罪〉とよばれた。狭義の騒乱罪と多衆不解散罪とがある。狭義の騒乱罪は,多衆が集合して暴行または脅迫することにより成立する。〈多衆〉とは一地方における公共の静穏を害するに足る程度の暴行・脅迫をするのに適当な多人数をいう。また〈集合〉とは多数人が集団で行動することをいう。内乱罪と異なり組織化された集団である必要はなく,いわゆる烏合の衆であってもよい。したがって,事前の謀議・計画等は必要でなく,平穏に合法的に集合した群集が途中より騒乱罪を犯すような集団に化することもある。そのため,集会・表現の自由との関係で,規定の慎重な解釈・運用が要請されている。多衆の暴行・脅迫といえるためには,共同して暴行・脅迫の行為をするという客観的要件のほかに,主観的要件として各人が共同して暴行・脅迫する意思(共同意思)を必要とする。騒乱罪は群集犯罪であることを考慮し,荷担者の役割・地位に応じて処罰を異にする。主導的役割を果たした首謀者は1年以上10年以下の懲役または禁錮,指揮者・率先助勢者は6ヵ月以上7年以下の懲役または禁錮,野次馬のような付和随行者は10万円以下の罰金に処せられる(刑法106条)。
多衆不解散罪は,暴行または脅迫をするための多数人が集合し,警察官より3回以上解散命令を受けたのになお解散しないとき成立し,首謀者は3年以下の懲役または禁錮,その他の者は10万円以下の罰金に処せられる(107条)。
騒乱罪はかつて旧刑法下においては兇徒聚衆罪として自由民権運動等の弾圧に用いられた。現行法下においても,戦前は米騒動に,戦後はいわゆる四大騒擾事件(平事件,メーデー事件,吹田事件,大須事件)において,また,その後いわゆる新宿駅事件(1968)に適用された。なお,政治目的のための騒乱罪の予備,陰謀,教唆等については破壊活動防止法が規定する。
→内乱罪 →破壊活動防止法
執筆者:堀内 捷三
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