化学物質や食品に含まれる成分など、環境やヒトの体に悪影響を及ぼすリスク(危険)を一つ減らすと、別のリスクが増えてしまい、実質的にはリスクを減らせていないような状態が起こること。現代社会は安全性を高めるため、懸念すべきリスクのない状態をあらゆる対象で追求しており、食品や製品などのリスクを評価するのと同時に、その評価の裏側にあたるリスクトレードオフの評価も必要視されている。たとえば、2012年(平成24)3月には、日本の食品安全委員会の市販食品に関するトランス脂肪酸の含有量調査でリスクトレードオフの懸念が浮上した。とりすぎると狭心症や心筋梗塞(こうそく)といった冠動脈疾患のリスクが高まるトランス脂肪酸は、WHO(世界保健機関)の勧告でも摂取するエネルギー比1%未満に抑えるべき成分とされている。そのため食品メーカーはマーガリンやショートニングなどの市販食品でトランス脂肪酸の含有量を抑えたが、代替に使った材料の影響により、飽和脂肪酸の含有量が増加した可能性があるということが判明した。飽和脂肪酸もとりすぎると、トランス脂肪酸と類似した疾患リスクを高める可能性がある成分で、リスクへの過剰な反応がまったく別のリスクを冒す危険性を示すことになった。
海外でもこのようなケースはたびたび起こっている。2010年1月にアメリカで販売された中国製の子ども用アクセサリーから高濃度の有害物質カドミウムが検出された事件では、2007年に中国製玩具(がんぐ)で使用されていた塗料に鉛成分が含まれていることが問題となり、塗料を変更したが、代替に使用した塗料にはカドミウムが含まれていた。また、1991~1992年にはペルーで水道水の塩素消毒によって発癌(はつがん)性物質が副生成されるリスクを避けようとして塩素の使用をやめたため、結果的にコレラが流行してしまったという事例もある。
リスクトレードオフという考え方は現代社会において必要なものになっているが、社会や産業が絡み合うなかでの安全性をめぐる問題であり、その評価は単純ではない。リスクトレードオフの関係にある特定の成分や物質どうしの情報が分野間や研究機関で分断されている点、数多い既存成分に対する新規成分の影響の評価がしにくい点、業界によって評価基準が異なる点などが考えられる。基準の標準化や評価手法の共通化などといった知見や技術をまとめた基盤づくりが急がれている。
[編集部]
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