改訂新版 世界大百科事典 「海洋観測衛星」の意味・わかりやすい解説
海洋観測衛星 (かいようかんそくえいせい)
marine observation satellite
海面温度,海上風,波浪,海面高度などの海洋観測を目的とする科学衛星。1978年6月打ち上げられたアメリカのSEASAT(シーサツト)が最初である。その後いくつかの海洋観測衛星が打ち上げられており,ほかに気象衛星も海洋観測機器を搭載している。広範囲の海洋を同時に観測できる特徴をもつ。衛星の軌道から静止衛星と軌道衛星に分けられる。静止衛星は赤道上3万6000kmにあり,地球の自転と同速度で運動するため,広範囲を常時観測できる。これに対し,より地球に近づく衛星は,観測の分解能はあがるが,観測地点は移動する。海洋観測衛星は以下のような測器を搭載する。(1)赤外線放射計 海面が放射する赤外領域の電磁波(光)の強度を測定して,海面温度を評価する。雲があると雲頂の温度を示す。(2)カラー走査計 海面が放射する可視領域と近赤外領域の電磁波の強度を測定し,葉緑素の量や懸濁物の多い海水の分布などを評価する。(3)マイクロ波放射計 海面が放射するマイクロ波の強度を測定し,風速,水蒸気量,降水量,海面温度,海氷の分布を評価する。雲があってもマイクロ波は雲を透過するため海面の状態を計測できる。(4)高度計 衛星と地球との距離を測定する装置で海面の凹凸や粗度を測定する。衛星からマイクロ波を放射し,それが海面で反射され衛星に到達するまでの時間から距離を測定するマイクロ波レーダーが使用される。海流や渦などに伴って海面には凹凸が生じるが,これら海流や渦などに伴う海水の流れにおいて,海面の高低差による圧力傾度力と地球自転に伴うコリオリの力はほぼつりあう。このため海面の凹凸(海面のこう配)から,黒潮など海流の表面流速が評価される。海面粗度から,風波やうねりの平均波高が評価される。(5)散乱計 衛星の斜め下方の海面の粗度を測定するマイクロ波レーダーで,波長数cm程度の風波によるマイクロ波の散乱の強度と方向性から海上風の風向・風速を評価する。地表面の分解能は25~50kmである。(6)合成開口レーダー マイクロ波レーダーであるが,信号の演算処理によって十分に大きなアンテナをもっているのと同様の測定を可能としたもので,地表面の分解能は約25mまで向上する。短波長の風波の波高を変化させる,うねり,内部波,雨,海底地形,海流の境界,などを検出する。流氷の運動も検出できる。(7)データ収集システム 洋上のブイロボットなど無人観測の資料を無線で受信し,地上局に送信する。漂流ブイなどの位置を数kmの精度で決定する機能もある。
執筆者:平 啓介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報