シナノキ科(APG分類:アオイ科)の落葉高木。和名セイヨウ(ヨウシュ)ボダイジュ(セイヨウシナノキ)。ナツボダイジュT. platyphyllos Scop.とフユボダイジュT. cordata Mill.との雑種といわれ、ヨーロッパに分布し、都市の並木や公園に広く植栽されている。ベルリン市の有名なウンター・デン・リンデン通りには、ナツボダイジュおよびフユボダイジュとともに本種が植えられている。高さ30~40メートル。葉は互生し、円状卵形で、長さ6~10センチメートル、先は短くとがり、縁(へり)に鋸歯(きょし)がある。表面には毛はなく、裏面は葉腋(ようえき)に毛があるほかは無毛。6~7月、長さ3~5センチメートルの柄に、1枚のへら形の包葉が目だつ集散花序をつけ、淡黄色の花を開く。花には芳香があり、同じくシナノキ科の近縁の別種であるボダイジュ同様、ミツバチが好んで集まる蜜源(みつげん)植物である。果実は卵球形で堅く、わずかに5本の筋(すじ)があり、有毛である。種子は日本のシナノキより大きく、角張る。樹皮の繊維は衣類、編物、縄、網、籠(かご)、靴などをつくるのに用いられ、材は漁具、楽器、彫刻などにする。樹液から糖分をとり、花を干してお茶にし、ハーブ・ティーとして飲む。
シューベルトの歌曲『菩提樹(ぼだいじゅ)』のテーマは本種で、仏教にかかわりがある前記のボダイジュやインドボダイジュ(クワ科)とは別種である。
[小林義雄 2020年4月17日]
古代のゲルマン人やスラブ人はナラやモミの類とともに、ナツボダイジュや本種の古木を神の宿る木として神聖視した。ドイツではその木の下で裁判が行われ、しばしば村や町の象徴とされた。ドイツの地名ライプツィヒLeipzigは本種などの呼び名lipshに由来する。生物学者リンネCarl von Linnéの姓もボダイジュ類に基づく。フユボダイジュの繊維は古代ローマ時代から知られ、籠やブドウのつるを縛る紐(ひも)に使われた。
[湯浅浩史 2020年4月17日]
…セイヨウシナノキT.× europaea L.はヨーロッパに広く分布するナツボダイジュT.platyphyllos Scop.とフユボダイジュT.cordata Mill.の雑種といわれ,英名をcommon lindenという。シューベルトの歌曲にうたわれる菩提樹すなわちリンデンバウム(独名Lindenbaum)はナツボダイジュのことで,セイヨウシナノキとともにヨーロッパでは数世紀前から日陰樹または並木として植栽され,ベルリンのウンター・デン・リンデンの並木は名高い。【初島 住彦】。…
※「リンデンバウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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