日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボダイジュ」の意味・わかりやすい解説
ボダイジュ
ぼだいじゅ / 菩提樹
[学] Tilia miqueliana Maxim.
シナノキ科(APG分類:アオイ科)の落葉高木。幹は灰褐色、小枝は細毛が密生する。葉は互生し、ゆがんだ三角状卵形で、長さ5~10センチメートル。先はとがり、基部は斜めの切形(せっけい)または浅い心臓形で、縁(へり)には鋭い鋸歯(きょし)がある。裏面と葉柄に灰白色の細星毛が密生する。6~7月、葉腋(ようえき)から下向きに長い柄のある散房状の集散花序を出す。柄には狭いへら形の包葉が1枚ある。花は小さく淡黄色で香りが高く、シナノキの香りに似る。養蜂(ようほう)の蜜源(みつげん)植物としてよく知られる。花弁、萼片(がくへん)はともに5枚、雄しべは多数、雌しべは1本。果実は小球形で、長さ7~8ミリメートルの核果になり、細毛が密生する。
適潤地を好み、成長が速い。繁殖は実生(みしょう)により、10~11月に取播(とりま)きをする。中国原産で、寺院などによく植えられるが、ほかに次のような種類がある。
オオバボダイジュは葉が大きく、円心形で長さ7~18センチメートル、裏面に淡緑灰色の星状毛が密生し、脈腋に褐色の毛が生える。品種のモイワボダイジュは葉の裏面の毛がまばらで少ない。ノジリボダイジュは、シナノキより葉がやや大きく、裏面の毛はまばらである。ツクシボダイジュは全体がオオバボダイジュに似るが、葉裏脈腋の毛が発達しない。
[小林義雄 2020年4月17日]
文化史
本種以外にボダイジュの名がつく植物にインドボダイジュFicus religiosa L.と、セイヨウ(ヨウシュ)ボダイジュ(セイヨウシナノキ)Tilia × europaea L.があり、しばしば混同される。インドボダイジュはクワ科の熱帯生の常緑樹で、釈迦(しゃか)がこの樹の下で悟りを開いたとしてよく知られている。また、セイヨウボダイジュは本種と同じシナノキ科(APG分類:アオイ科)の落葉高木で、ドイツ語名をリンデンバウムLindenbaumとよび、シューベルトの歌曲名として知られている。
仏教の菩提樹(ぼだいじゅ)の名は本来インドボダイジュであるが、熱帯生のため中国では育たず、葉形が似ているシナノキ科のボダイジュが代用された。『東大寺造立供養記』(1195)には、菩提樹を東方の土地の庭前に移し換えたと記されており、また栄西上人(えいさいしょうにん)が中国の天台山万年寺で菩提樹の種子を播(ま)いたのを持ち帰り、香椎宮(かしいぐう)に建久(けんきゅう)元年(1190)に植えたとの記録(『大和本草(やまとほんぞう)』1709)もあるが、これはボダイジュである。
菩提樹の種子は菩提子(ぼだいし)とよばれ、古くから仏教の行事に用いられた。しかしインドボダイジュの種子はごく小さく、『仏教校量数珠功徳(じゅずくどく)』にある「菩提子の数珠をもって一誦(いっしょう)すれば功徳無量倍」とされる菩提樹の数珠玉(種子)はインドボダイジュのものではなく、ボダイジュまたはホルトノキ科のジュズボダイジュElaeocarpus sphaericus (Gaertn.) K.Schum.(E. ganistris Roxb.)のものである。
[湯浅浩史 2020年4月17日]