日本大百科全書(ニッポニカ) 「シナノキ」の意味・わかりやすい解説
シナノキ
しなのき / 科木
[学] Tilia japonica (Miq.) Simonkai
シナノキ科(APG分類:アオイ科)の落葉高木。高さ25メートル、径1メートルに達する。幹は灰褐色で、樹皮は縦に裂ける。葉は互生し、いびつな卵円形で、長さ4~9センチメートル。花は6~8月、葉腋(ようえき)から下向きに出た集散花序につき、淡黄緑色で香りがある。花序の柄にはへら形で葉状の包葉がある。果実は堅果で、球形、径約5ミリメートルで毛がある。山地に普通に生え、北海道から九州に分布し、日本の温帯林の代表的な樹種の一つである。花には香りのよい蜜(みつ)があり、重要な蜜源植物である。材は合板、彫刻材、箱材などにする。樹皮から繊維をとり、布、縄、蚊帳(かや)、漁網などにする。科木は当て字で、シナノキはアイヌ語で「結ぶ、縛る」という意味のシナに由来するという。
シナノキ属は北半球の温帯に30種あり、欧米では古くから並木として栽培され、詩歌にもよく歌われる。属名のTiliaは繊維を意味するギリシア語tilosによる。
[門田裕一 2020年4月17日]