日本大百科全書(ニッポニカ) 「リントン」の意味・わかりやすい解説
リントン
りんとん
Ralph Linton
(1893―1953)
アメリカの文化人類学者。フィラデルフィアのクェーカー教徒の家に生まれる。スウォスモア・カレッジを卒業。その後、ペンシルベニア大学、コロンビア大学で学び、1925年ハーバード大学で学位取得。1928年ウィスコンシン大学教授、1937年コロンビア大学教授を経て、1946年エール大学教授。文化とパーソナリティー研究において指導的役割を演じ、1939年から5年間にわたって学会誌『アメリカン・アンソロポロジスト』American Anthropologistの編集にもあたった。個々人のパーソナリティー形成に及ぼす文化の役割の解明と理論化に力を注ぎ、コロンビア大学時代には精神分析学者カーディナーAbram Kardiner(1891―1981)と協力して数々の注目すべき研究成果をあげた。しかし、彼の説はカーディナーとは異なり、幼児期決定論ではなく、地位や役割に伴う社会的要請に対する適応といった過程も考慮に入れていた。「基本的パーソナリティー・タイプ」と「身分パーソナリティー」の区別がそれに対応する。前者は一社会の成員に共通する価値=態度体系にあたるもので、一致した情緒的反応を生み出す「深層の」パーソナリティーで、幼児期の育児の方法となんらかの関係がある。それに対し後者は、個々人が社会体系内の特定の位置に適応していく過程で身につける一定の反応の統合体、およびその背後にある価値=態度体系で、前者に付け加えられた表層部にあたる。この2概念によって個人、文化、社会の相互関係を統合的にとらえうるとした。また彼は人類学、社会学、心理学の統一による「人間科学」science of manを主唱した。主著に『人間の研究』『パーソナリティーの文化的背景』『文化の木』などがある。
[濱本 満 2019年1月21日]
『ラルフ・リントン著、清水幾太郎・犬養康彦訳『文化人類学入門』(1952・創元社)』