土着主義運動(読み)どちゃくしゅぎうんどう(英語表記)nativistic movement

改訂新版 世界大百科事典 「土着主義運動」の意味・わかりやすい解説

土着主義運動 (どちゃくしゅぎうんどう)
nativistic movement

西欧列強による植民地支配を受けた諸民族が,列強のもたらした新しい文化要素を排除して,民族固有の文化要素を復活させようとする運動。列強による植民地支配は,アジア,アフリカ,アメリカ,オセアニアの諸民族を政治的,経済的,社会的に抑圧したばかりでなく,西欧文明の影響のもとで伝統文化の変容を促進した。このような危機的状況のなかで,列強の支配に抵抗する土着主義運動が各地で起こった。たとえば,ニュージーランドは1840年にイギリスの植民地となったが,数多くのマオリ族が植民地化に反対し,戦闘的な抵抗を繰り返した。そのような危機的状況のなかで,テ・ウア・ハウメネという予言者があらわれ,ハウハウ運動という土着主義を組織した。彼はこの世の終末天国の到来を予言し,マオリ人を抑圧するイギリス人がすべて放逐されると説いた。そのうえ,テ・ウアは信者に,イギリス人との戦闘において〈ハウ! ハウ!〉と叫んで突撃すれば,たとえ銃弾にあたっても死ぬことがないと説いた。〈ハウ〉という言葉は多義であるが,宗教的には生命力の意である。また,彼はイギリス人との接触によって喪失した伝統文化を復活することにつとめた。たとえば,イギリス人の宣教師によって禁じられた食人習俗を復活させ,戦闘で殺したイギリス人の人肉を食べることによって霊力を得ることができると説いた。イギリス人を排斥するために,土着の文化要素を復活させて運動の中核にすえたという意味で,これを土着主義運動とみなすことができる。それとともに,天国の到来を祈願したという意味において,千年王国運動としての性格もあわせもっているといえる。このほか,メラネシアのカーゴ・カルトアメリカ・インディアンゴースト・ダンスなども,土着主義運動とみなすことができる。アメリカの文化人類学者ウォレスAnthony Wallaceはこれらの土着主義運動をより包括的な概念である〈再活性化運動revitalization movement〉としてとらえなおすことを提案している。再活性化運動とは,なんらかの形で危機的状況に陥った人々が,みずからの文化を再活性化させて,より満足のいく文化を形成するためにおこなう組織的行動のことである。ウォレスは,のぞましくない外来の文化を排除したり,外国人を排斥しようとするのが土着主義であり,外来の文化との接触によって喪失した伝統文化を回復しようとするのが復古主義であると定義したうえで,運動のプロセスにおいてはこれらの二つの要素がしばしば混在しており,それらを一括して再活性化運動としてとらえなおすほうが妥当であるとしている。
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百科事典マイペディア 「土着主義運動」の意味・わかりやすい解説

土着主義運動【どちゃくしゅぎうんどう】

1943年にこの用語を初めて提唱したリントンは〈当該文化の特定の面を復興ないし持続化させるために社会の成員が行う意図的・組織的試み〉と定義した。しかしその後は〈社会から異国人もしくは異国起源の文化要素をなくそうとする運動〉をさすのがより一般的。よく挙げられる例はゴースト・ダンスカーゴ・カルトなど。土着主義運動の発生要因には諸説がある。伝統社会が西欧との接触で急激な変化を被ったゆえの集団的ヒステリーであるとする〈文化変容〉,低い生活水準が現状への不満を生むという〈絶対的剥奪〉,願望と現状との差が住民を運動に向かわせるという〈相対的剥奪〉などの理論がある。また,合理的な段階にいたる前の原初的な政治運動として土着主義運動をとらえる論もある。
→関連項目千年王国ラスタファリ運動

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土着主義運動」の意味・わかりやすい解説

土着主義運動
どちゃくしゅぎうんどう
nativistic movements; nativism

一般に先住民社会が急激に西洋近代文化と接触するときに起る宗教的民族主義運動のこと。特に 19世紀末から 20世紀中頃まで,広く東南アジア,アフリカ,北アメリカの各地に起った。共通した特徴は,ある特定の個人が神霊の啓示によって預言者として立ち現れ,信徒集団を組織して為政者や異教徒に対して抵抗を試みるという点である。抵抗の形態は,一つは完全な拒否反応であり,もう一つは異文化をみずからのものとして積極的に取込もうとするものである。代表例として前者の北アメリカインディアンのゴースト・ダンス教,後者のメラネシア諸島でのカーゴ・カルトがよく知られている。インドネシアでは,イスラム教徒によるものと,非イスラム的意趣による抵抗運動がみられた。南アメリカでは白人の収奪の激しかった 18世紀中頃に預言者運動が発展し,みずからの家畜や食物をヨーロッパ人に渡さないために故意に処分し,至福の時代の到来を待望したが,結果は悲惨なものに終った。

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