ルカーチ(読み)るかーち(英語表記)György Lukács

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルカーチ」の意味・わかりやすい解説

ルカーチ
るかーち
György Lukács
(1885―1971)

ハンガリーマルクス主義哲学者、文学史家。ブダペスト名家の生まれ。ブダペスト大学で文学博士号をとり、ベルリン大学でジンメルに、ハイデルベルク大学でM・ウェーバーに師事した。のち思想的転機を経て、1918年に共産党に入党し、ベラ・クンを中心とするハンガリー・ソビエト共和国樹立に際しては、文化教育相を務めた。地下運動の問題でクンと対立し、彼は『歴史と階級意識』(1923)で自己の立場を明らかにしたが、「偏向」とみなされ、党の中央を追われた。

 しかし、ヒトラー登場後、モスクワに亡命し、自己批判を重ねて科学学士院の哲学研究所で美学、文学史を研究。1944年ハンガリーに帰国し、大著『若きヘーゲル』(1948)、『理性の破壊』(1952)を著した。1956年の動乱にはペトウィ団の指導者として反ソ派の立場をとり、一時はナジ政権の文化相を務めたが、ルーマニアに追放された。1957年許されてブダペストに帰り、以後美学研究に専念した。

 彼の哲学は、ソビエト系のマルクス主義とは著しく異なっている。第一に、自然弁証法を認めず、社会的実践を通じての主観・客観の合一という立場をとること。第二に、経済決定論に対して前衛の理想的先駆性を重視し、プロレタリアートの自己認識において、疎外からの回復を図るという構想をもつこと。第三に、反映論の立場をとらず、思惟(しい)の働きを含むものとしての、生成する実在がプロレタリアートの運動を媒介として、全体性としての真理を実現すると考える点である。しかし、第二次世界大戦後はソビエト系の考え方への接近を示してもいる。著書にはほかに『ドイツ文学小史』(1945~1947)、『実存主義かマルクス主義か』(1948)などがある。

[加藤尚武 2015年11月17日]

『小場瀬卓三他訳『ドイツ文学小史』(1951・岩波書店)』『城塚登他訳『実存主義かマルクス主義か』(1953・岩波書店)』『ジョルジ・ルカッチ著、良知力・池田貞夫他訳『美と弁証法』(1970・法政大学出版局)』『国松孝二・川村二郎他訳『ルカーチ著作集』全13巻(1986~1987・白水社)』『パーキンソン著、青木順三・針谷寛訳『ルカーチ』(1983・未来社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルカーチ」の意味・わかりやすい解説

ルカーチ
Lukács György

[生]1885.4.13. ブダペスト
[没]1971.6.4. ブダペスト
ハンガリーの哲学者,文芸理論家。ブダペスト,ベルリン,ハイデルベルクの各大学で美学,歴史を学ぶ。 1918年ハンガリー共産党員となり,革命運動に加わったが,失敗してウィーンに逃れ,さらにベルリン,モスクワなどに滞在,マルクス=エンゲルス=レーニン研究所所員となる。第2次世界大戦後ハンガリーに戻り,ブダペスト大学教授。ヨーロッパの文学に関する広範な知識と深い美学的素養を有するマルクス主義文芸理論の代表的存在。主著『小説の理論』 Die Theorie des Romans (1920) ,『歴史と階級意識』 Geschichte und Klassenbewusstsein (23) ,『実存主義かマルクス主義か』 Existentialisme ou Marxisme? (48) ,『理性の破壊』 Die Zerstörung der Vernunft (54) 。

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